I love…
目的語のない言葉はズルイ。
…のあとには、"わたし"も"あなた"も入る。
そして入替えも可能だ。
わたしたちはいつも…に囲まれている。
…にわたしを入れるべくがんばってもがんばっても、はっきりとは見えない。
ときには"わたし"をペリッとはがすと、別の名前が出てくることもある。
…の答えは無数にあって、だけど唯一無二であってほしくて、また君の言いさしに目を閉じるのだ。
#I love…
「街へ行く」と聞くと、街に住む私はみんながこちらにやって来るんだなと思ってしまう。
だけど、違うみたいだ。
わたしを通り過ぎて、みんな「街」のイメージの中へ溶けていってしまう。
欲望の街
必要の街
思い思いの街
わたしはたくさんのどんぐりを地面に転がして、ちょっといじわるな透明な鳥たちと一緒にお茶会をしながら、その劇場を眺めている。
#街へ
あの人の手はやさしい。
毎朝散歩をしているあの人は、微かに頷きながら目を合わせてくれる。
通りがかりに、その大きな手でスッと撫でてくれるときもある。
まわりの華奢だけどちょっと気の強い子たちに気圧されているとき、
パツン。
パツン。
彼女たちを、消した。
わたしは心おきなく太陽を浴びた。
きらきらとした産毛、たっぷりとふくらんでゆく桃色の肌。
今朝もまたあの人がやってくる。
あの人の手はやさ/
パツン。
#優しさ
真夜中にイメージしても、向日葵は青空に咲いている。
実際の花が深夜、方位を定めきれずにそよそよと風に揺らいでいても、太陽がいるふりをして上を見上げていても、どちらでも構わなかった。
誰も思い及ばない。
そんな真夜中のひまわり畑に分け入った。
彼女は小さな青い紙袋をひとつ、地面に置いた。
#ミッドナイト
ダリアの花は私を不安にさせる。
あの緻密で整ったピンクと黄色のグラデーション。
ひとつひとつの花びらがまるで視界のすべてとならんばかりに奥へ奥へと引き寄せる。
「見てはいけない」
と検閲官は言った。
「見なさい」
と遠くの声は言った。
「花びらが毟り取られたあとの姿も違わずにイメージできるくらいに」
私は安心を得るためもう一度ペンを握りなおした。
#安心と不安