もう一つの物語は
夜明けに隠れて
昨日と今日の隙間に落ちる


#もう一つの物語

始まりはいつもささやかで
古びた靴の音
カフェのスプーン
あの日のレシート

それが大事なものになるなんて
そのときは気づきもしなかった


#始まりはいつも

秋晴れの空の下
たまごのような真っ白な雲がふわり

ぼくらはすれ違い
言葉の殻を割ることなく
ただ静かに歩き去った


#すれ違い

違う道を選んだふたり
目指すところは同じなのに
話す言葉はもう絡まない

ぶつかれば打撲になるように
痛みだけが残ってしまう

忘れたくても、忘れられない
忘れたくないのに、忘れてゆく

どちらになるかわからない


#忘れたくても忘れられない

どのように解いても誤答にしかならない問題があって
それを
美しく解くか
率直に解くか
それが問題だった

後悔はどちらに傾くだろう
イヤリングが右だけ揺れた


＃後悔