電車にのり、空いている席に座る。
隣は、40代くらいの会社員だ。うとうとしている彼は、全身から疲労感が漂っている。降りる駅までは30分ほどかかるので、ボクも目を瞑って少し眠ることにする。
すぐに眠りについたボクは、ぼんやりと夢の中で漂う。隣の男性が見ている苦痛な風景が、ボクにもみえる。彼と同じ感情を味わいながら、これらすべてが浄化されますように、と願う。
目を開けると、隣にいた男性は立ち上がり、電車を降りていく。幾分、足どりが軽やかなように見受けられて、ボクはホッとする。
ボクは幼い頃から、近くにあるものたちの苦しみを同じように味わってしまうことに気づいた。はじめの頃は、ただ苦しさを一緒に感じるだけで何にもできなかった。ボク自身も苦痛で、どうしてよいか分からなかったのだ。
ある日、少女の苦痛な場面を共に味わったとき、ボクは彼女の苦しみがすべて浄化しますように、と心から願った。
すると、不思議なことにみえている風景の粒が、一瞬細かくキラキラと輝いた。その少女にまとわりついた重さがふわっと取り除かれたのが、ボクには分かった。
それ以来、いろんな場所でボクはいろんなものたちの苦しみをひっそりと浄化している。これが、ボクができる、ささやかなことだ。
ベンチに座って ぼんやりしていたら
風が ぴゅるんと 吹いて
おでこに ぺたり と
枯葉が くっついた
びっくりして 手に取ると
その枯葉には
「♡」マークが書いてあった
あたりを
キョロキョロ みてみたけれど
他には 誰も いなかった
とっても 不思議だった けど
ボクは
ちょっぴり 嬉しく なって
ちょっぴり 元気が でた
そろそろ 日が暮れるから
ベンチから 立ち上がると
また ぴゅるんと 風が吹いて
耳元で
「ふふふ♡」 と
鈴が鳴るような
可愛らしい声が 聞こえたようなきがした
午前0時になる瞬間が好きだ。
今日というものが、明日になる。
明日だったものが、今日になる。
毎晩ずっと、それを繰り返す。
わたしは、枕元の時計を見つめる。
今日にさよなら
明日にはじめまして
の時は、
もうすぐだ。
廃墟にあった、お菓子の缶をあけると、思いのほかキレイなビーズが入っていた。
1番大きな青いビーズを手にとり、日の光にあてると、不思議なことに、まだキラキラと輝いた。
オバケが出るよ、
入ると呪われるよ、
と近所の子どもたちには嫌われているらしいこの廃墟は、実はボクが幼い頃住んでいた家だ。
母が病気で亡くなって、父はどこかにいってしまって、ボクと小さな妹は母方の親戚の家に引き取られた。本当に優しい人たちで、ボクら兄妹は何不自由なく、充分に育ててもらった。
しかし、不幸は続くもので、なぜかその親戚たちもたてつづけに亡くなってしまった。身体が弱い家系なのだろうか。そのへんはよく分からない。
ボクと妹は、二人で暮らすようになって、ひさびさにお互い仕事も休みだから、昔住んでいた場所に行ってみようか、という話になった。電車をいくつか乗り継いで、ボクたちは20年振りにこの場所にきた。
懐かしい、というより、知らない場所に訪れた、という感覚だった。
家の中はボロボロだったけど、押し入れの隅の箱に入っていたお菓子の缶は、案外キレイだった。それは、妹のお気に入りで、大切なものをいれて、いつも大事に抱えていた。この家のことはほとんど覚えていない妹も、この缶だけは印象にのこっていたみたいだ。
さまざまなビーズの下に、1枚の写真があるのを見つけた妹は、「あ。」と声をあげた。
写真には、父、母、ボクと妹、の4人が写っていた。夕飯だろうか?カレーライスを食べながら、みんなキラキラと笑っていた。
そうだった、妹は、この写真が特にお気に入りだった。だから、写真たてに飾ってあったのをこっそり抜いて、この缶にしまっていたんだった。父も母もボクもみんなそれを知っていたけど、見て見ぬ振りしていたっけ。
ああ、そうだった。
懐かしいなあ。
ボクと妹は、そのお気に入りの缶を持って帰りの電車に乗った。
隣に座る妹は、いつになくご機嫌だった。
そもそも、ボクたちに優劣なんてないんだけど、誰かと比べてできないことが、ボクには多すぎるんだ。
待ち合わせには必ず遅れるし、昔から宿題とか提出物は必ず忘れるし、何か食べればこぼすし、歩けば転ぶ、なんにもないのに。…てな感じで、いままでよく生きてきたなって自分でも思うよ。助けてくれた家族や恩師や仲間たちに感謝だね。
そんなボクなんだけど、実は誰よりもできることがあるんだ。ずっと秘密にしていたんだけどね。
それはね、空気を読むこと。
正確には、空の気を読んで、話ができるの。
うーん、表現が難しいね。
例えば、
遠足の日は、みんな晴れて欲しいでしょ?前の日の帰り道、ワイワイ話してるみんなの横で、ひっそり空を見上げて、明日の天気を読むんだよ。でね、雨だったときは、お願いするんだ。明日遠足だから、晴れにして欲しいなあ、って。
ボクの話をきいて、「気」たちは、さわさわふわふわそよそよ、と流れどどまりながら考えてくれて、つまるところ、晴れ、にしてくれるんだよ。たまーに、機嫌が悪くてさ、叶わないときもあるけど、だいたい望んだ天気にしてくれるんだ。
空の気たちは、とっても優しいんだよ。
いつもボクたちを見守ってくれてる。
大雨のときも、台風や強風のときも、逆に雨が降らず困るようなときも、彼らなりのおもいがあるんだよね。
なかなか理解してもらえないだろうし、
天気なんて偶然だよ、とバカにする人もいるだろうから、内緒にしていたんだ。
キミなら話しても大丈夫と思ったから、初めて言ったよ、ボクの特性。
ありがとう!聞いてくれて嬉しいよ。
明日はスキーだね。楽しみだ。
少し雪が少なめだって、言ってたよね。
よし、雪を降らしてもらえるか、気たちに聞いてみるよ!