ここに何かを書こうとするとき
その素材の多くは
過ぎ去ったわたしの生涯の
すでに失われた時間のなかにある
お題をきっかけに
自分のなかの未整理の
夥しい記憶 感覚 におい 手触り
思いがけないそのひとつに辿りつく
ひとつ整理をしては
すっと心が浄化されるような
そんな心地よい感覚
(プルースト効果ならぬお題効果と思っている)
「失われた時間」
#419
子どもをはじめてあずける時
泣きべそ顔のわが子とおなじに
きっとわたしも不安げだった
その時ひとりの保育士さんが
黙ってわたしを抱きしめて
背中を優しくさすってくれた
驚く間もなく巨大な安心感に包まれ
自分が幼子になって護られている気分
子どもが泣いたら同じようにするからと
言葉のいらないハグのチカラ
あなたは大切な存在だと
安心して身を任せていいのだと
いくつになっても誰だって
幼い自分がひそんでる
こころの奥のやわらかな記憶
「子供のままで」
#418
高層階のベランダで
大きな声で鳴くカラス
二羽で追いかけっこしたかと思うと
急上昇や急降下 派手に羽をはためかす
いまはちょうど求愛の季節
光るものや食べものを贈ったりもするという
力強い飛翔能力を見せ
声を響かせ遠くへ叫ぶ
見てると確かにカッコいいかも
応援しちゃう がんばれカラス
「愛を叫ぶ。」
#417
花もよいけどこの時期は
虫食いの葉を探して歩く
公園の菜花の葉には
モンシロチョウの幼虫がたくさん
風雨の強い日には様子が気がかり
明日も見にいかなくちゃ
蛹になると見つからない
どこかでしっかり羽化してるかな
羽を透かして風のなか
あの時の子かな こんにちは
「モンシロチョウ」
#416
Unforgettable, that's what you are
Unforgettable though near or far
耳に残って離れない滑らかな歌声が
お題を目にした瞬間からループ
甘い音色が身に沁み渡る
忘れられないあの人が
わたしを
同じように忘れ難く思ってくれたら
それはほんとうに素敵なこと
「忘れられない、いつまでも」
#415