かわいい仔牛
優しくしすぎちゃダメよ
名前をつけちゃダメよ
どうしてどうして
だってこんなに可愛い
心の中で「ムーちゃん」て呼ぶ
いつもムームー言って甘えてくるから
いっぱい餌を食べてね
毎日元気で 大きくなぁれ
学校から帰ってきたら
ムーちゃんに鼻カンがつけられてた
引っ張らないで、痛いよね
何ヶ月も一緒に過ごしたムーちゃん
出荷の日が来たのだって
トラックに乗って遠くに行くのだって
今まで聞いたことのないような声
あれはムーちゃんの声なの
泣かないで泣かないで
山の向こうからまだ切れぎれに
涙が止まらない ごめんねムーちゃん
悲しい思いをさせて
とっても大好きだったんだよ
「優しくしないで」
#409
わたしたちには色がある
明るい暗いだけでなく
進化の過程で獲得した色覚
熟した果実を見分けるため?
目からの圧倒的な情報量
色がついたらそれはもう膨大
便利なだけじゃない
それは美しく心を震わせる
移り変わる空の色
初夏にあふれる緑みどりまた緑
色を感じて生きられる
それはカラフルとってもミラクル
「カラフル」
#408
生きもの全般が好き
動物のなかで選りすぐるなら
マウンテンゴリラと
リクイグアナとクロサイが特に好き
クロサイだけはアフリカ現地で直接出会えて
大きく硬い身体に小さいつぶらな瞳
おちょぼ口で草をはむ様子
全てが最高に好きだと思いました
ゾウにキリン、ハイエナにヒョウ
ライオン、チーター、ダチョウ
その他もろもろ 動物の楽園
楽園をスワヒリ語ではペポニ
そう教えてくれた現地の友人は
人間のことも動物のことも大好きな
たっぷりの愛情と万国共通のユーモアをもった
魅力的な人
サイのこと本当に好きね、
といつも笑顔で言ってくれた
でも、そんな素敵な友人は
現地の治安が悪化した時 凶弾に斃れた
動物の楽園がいいよ、弱肉強食だとしても
人間は…人間でいるのは時々とっても嫌だよ
「楽園」
#407
草っぱらで大きなバッタをつかまえた
ビニール袋をもっていたので
餌になる葉っぱといっしょに入れて歩く
もっと歩いていくとイベント会場で
子どもたちに風船を配ってくれてて
ぼくも赤い風船をもらった
ビニール袋と風船を結びつけて
片手で持ちやすくして走る たったった
揺れる風船を見ながら走ったら、転んだ
転んだ拍子に風船は手を離れた
みるみるうちに高くのぼっていく
…バッタを連れて
風に吹かれて遠くまで
その後のことは想像できない
ごめんね、ごめんね
葉っぱ、きっともっといるよね
膝と胸がどっちも痛い
「風に乗って」
#406
よりによって入試本番のその朝は
前日から降り積もった雪が道を凍らせ
(す、べ、ら、ないように…!)
なんて言葉が思い浮かぶのもいやなこと、
そろりそろりと でも気持ちは急いて
試験会場になんとかたどり着き
開始までに冷え切った手を温めようと
ポケットに入れた使い捨てカイロを
取り出そうとしたその刹那
「無い…!?」と思わず声が出て
血の気が引くのを感じながら全ポケットを捜索
無い、無い、、無くとも試験に支障はないが
(落、と、し、た…)その事実が
あまりにも縁起悪くてもうダメだ
なんとかやっと答案を埋めたっけ
今なら些細なことと笑えるけれど
あの時はほんとうに身も凍ったのよ
「刹那」
#405