わすれなぐさ
いつもの帰り道
「山野草」の木札と 荷台にポツポツならぶ草花
花を育てたことはなかったけれど
山を離れて心細げな姿にふっと
仔猫を拾い帰るような そんな気持ちで
ちゃんとお世話するからね
なーんにもなかった私のベランダに
ほんのりピンクのつぼみがついて
そっと開いたはなびらは空の色
やわらかな葉が花が
外吹く風をおしえてくれる
「勿忘草」
#5
ぶらんこ
高く 強い陽射し
乾いた熱い空気
生きものたちが皆 光から身を隠している時間
大きな木の ゆたかな葉陰に 揺れるぶらんこ
腰かけて つま先をついたままゆらゆら揺れる
葉がつくりだす 涼しい風
揺れながら 本を読もう
遠い海の 山の 知らない国の物語を
ゆらゆら揺られて
こころはかぎりなくひろがっていく
「ブランコ」
#4
旅路の果てに…?
旅に終わりがあるのだろうか
旅とは
定まった居場所を離れて移ろいいくこと
川の流れるように 雲がすべり行くように
速さを変え かたちを変え とどまらずに
いのちもまた 旅をしているのだろう
刻々と
でもそうとわからないくらいに少しずつ
出会いごとに少しずつ その姿を僅かに変えて
いのちは
星々のかなたのそのふるさとを離れて
わたしたちという舟に乗り旅をする
舟が朽ちたとき いのちはふるさとに還る
そしてまた つぎの旅がはじまるのだろう
舟は朽ちても 旅がおわるのではない
くるくると くるくると
いのちは旅をつづけていくのだ
「旅路の果てに」
#3
いつか
こどもの頃
大人たちをまるで神様のように思っていた
世界の全てを知り できないことなどない
そんなふうに
世界の全てがどんどん見えて 理解して
そして何でもできるように自分もなるのだろう
大人になるって そういうこと
大人も この世界も 揺るぎなく盤石で
いつか自分もそんな確かな存在になるものだと
そんなふうに信じていた
いつかそんな大人になるはずだった
でも
いつのまにか大人?にはなっていたようだ
けど
どうも大人って そんなふうじゃなかったんだ
大人って たどり着く完成形じゃなくって
たどり着きたい気持ちを抱えたままの大きなこども
思っていたのとちがうけど
でも
小さなこどもたちには思っていてほしいのだ
この世界が安心して生きていける場所なのだと
だからちょっと 大人のふりをしちゃってる
思い描いていた大人になったつもりでね
こどもたちよ どうかわれらを踏み越えて
もっと遠くへ
とどけ
「あなたに届けたい」
#2
I love…
あたたかな陽射し
ふくらむ新芽
湧く雲 風に流れる雲
刻々と色を変えていく夕焼け
急に視界が開けたときの大空
しんとした夜の冷たい星のまたたき
仲間と鳴き交わす鳥の声
草花を揺らす柔らかな風
空に伸びる木々の枝のかたち
花蜜を求める鳥や蝶たち
進むと遠のくセキレイ
ふいに流れてくる沈丁花や金木犀の香り
開きたてのクチナシの白い白いやわらかな花びら
クチナシを訪れる小鳥のようなオオスカシバ
みかんの葉で日々大きくなるアゲハの子
町でいちばんに咲く公園の紅梅
秋に出会うお腹の大きなカマキリ
布団のなかで気づくコーヒーの香り
誰かが私を呼ぶ声
大きな小さなあたたかい贈り物たち
日向で足もとで膝の上で眠る犬
目の前の幸せな笑顔
全ての無心に生きる命
いまこうして愛するものを思う時間
いまこうしてここにあること
「I love」
#1