「列車に乗って」
列車に乗って旅に出る。どこへ行こうか。
行き先を決めずに出発するのも面白いかもしれない。
高い所は苦手で飛行機は乗れないが、
列車や船なら日本全国どこでも行ける。
いつか話していた(死別した)元カレの地元にでも
行ってみようか。
僕らは同性同士で結婚は出来なかったけれど、
お互いを想い合っていたのは事実だし、
現に両家公認でもあった。
「向こうの親御さんに話したら快く受けてくれるだろうか…」
そんなことをぼんやりと考えながら荷造りを進めていた。
立花馨
「遠くの街へ」
「なに浮かない顔してんの? 心ここに在らずって感じじゃん。何か悩みでもあるなら聞くよ?」
教室の窓際でボーッとしていると同級生の翔(カケル)が話し掛けてきた。聞くに魂が抜けた様に見えたらしい。
「悩みって程じゃないけど……」
「ないけど?」
「来週…引っ越すんだ、親の仕事の都合で九州に。…まぁ僕ももう高校生だし、ついて行くかどうかは自由に決めていいって言われてるけど、どうしたら良いか分かんなくて…」
憂鬱に溜め息をついていたら、唐突に頭を撫でられた。
「どっちを選ぶにしても、後悔しない方にすれば良いんじゃない? 俺としては仲良いヤツが行っちゃったら、ちょっと淋しいけど」
「こっちに居る方が、楽っちゃ楽なんだよね。翔はさ、付き合い長いし僕の事をわかってるから、僕を女の子扱いしないじゃない」
「まぁ、小学校からの仲だしな。話してて女子を相手にしてるって感じしないのが率直な感想かな。あと単純に気が合う」
家族にはカミングアウトしてないし、言い訳するのも面倒だから女子用の制服を着ているが、身近なところで話しているのは翔だけだった。
「まぁ…もう少し考えてみるよ。答えが出たらまた報告するね」
「了解、気長に待ってるよ」
そんな話をしながら休憩時間を終えた。
立花馨
「現実逃避」
逃げたい時は誰にだってあると思う。
僕も一時期、めちゃくちゃ現実逃避してた。
それでも君が『どれだけ悩んでいても、明けない夜はない。後になって向き合う勇気が持てれば、一時の現実逃避も悪じゃない』と言ってくれたお陰で、僕の心も少し軽くなった。
学生時代だけの付き合いだけど、
君はいつも僕の隣りに居た。
君は僕にとっての太陽だったよ、ありがとう。
立花馨
「君は今」
君は今、どこで何をしているのだろう。
君はいつも“自由”について問いていたが、確かに自由というものへの疑問はずっと持っていた。
どこからが、或いはどうなれば自由と云えるのか。
例えば…、就職して親元を離れたら?それとも何かしら引退(か退職)をして余生に費やす事になってから?
いくら考えても答えは出ない…。
この世に、人生に、本当の自由なんてあるのだろうか…。
立花馨