空いた電車に乗って出掛けたとき。
向かいの席に座るお姉さんの旅行カバンから、視線を感じた。
おや。
鞄のフチに、白い小鬼が腰掛けている。
これからの道程を思うのか、楽しそうな目だった。
こちらは、冬に備えるコート。
対して、春物スカートのお姉さん。
そうか、大きく巡る渦のなかでも、分岐を察して乗り換えるんだね。
小鬼が、ではまた、と手を振った。
【衣替え】
この季節になると、金木犀の香りを楽しむいろんな物が店頭に並びます。
スキンケアグッズに入浴剤、アロマキャンドル、お茶やお酒も。
黄色は幸運に近い認識も持たれるので、集めて陳列すると映えますね。
わたしは近付きません。
どうもあの匂いは苦手で。
【すれ違い】
食器洗いの最中に、よく思い出す。
あと、洗髪中。
詳細がよみがえる前に、ごめんね、って何度も言う。
もう許されているかもしれないけど。
ごめんねの印象の友人が数人。きっと、今後も会わないね。
【忘れたくても忘れられない】
原稿用紙の最初のマスって、上から光が落ちてくる感触があった。その後の30枚について、脳回路を照らすような。
でも、ワープロ使うようになると、その光は遅れて見えるようになった。プリントしたものを見返すほどに、修正点が浮かんだ。
今、パソコンになったら、完成体が分からなくなった。
高校生のころみたいに、また上を見る。
【やわらかな光】
教室を出ると、ルカリオが待っていた。
部活を引退したばかり、という時季でもないけど、やっぱり一緒に下校する。
本屋で赤本を眺めたり、予備校の料金表を調べたり、不安と夢を共有して、順当に受験生になっていく感じだった。
「最近のニュースはさ、見ていられないね。あんなに人が死んでいるのに」
ルカリオのつぶやきに、何度も頷く。
ウクライナも、イスラエルも、収束の影は見えない。非力な俺たちは、なんの役にも立たない。そんな気持ちにも、慣れたくないのに。
「俺さ、いつか、圧倒的に強くなりたいな」
ドダイトスに進化した瞬間に思い出したのが、何故かこのやり取りだった。
そう告げたら、ルカリオはゲラゲラ笑った。
「もう強いからさ、俺たちは」
別の景色が、見えそうだった。
【放課後】