行かないでと思ったことは幾度となく。
言葉に出すのは
「行ってらっしゃい」
「寂しくなるね」
行かないでという思いを秘めた言葉
制止の声が届かないのはわかってるから
手をはなして送り出す
行かないでという言葉を飲み込み
「おかえりなさい」と言える日を待つ
このまま時間が止まればいいのに。
そう思ったことは数え切れない。
反面頭に浮かぶ言葉。
ゆく河の流れは絶えずして、
しかともとの水にあらず。
時間の流れもそうなのだろうか。
昨日は今日につながっているが
昨日の時間と今日の時間は違う。
ひとりひとりの明日が交わることは
奇跡だったのかもしれない。
毎日顔を合わせたクラスメートは
いつの間にか別々の道を歩んだ。
また明日、がまた来週。また来月。また来年。
またいつか。
あああのときに戻りたいと祈っても願っても
もとの時間には戻れない。
水は流れを止めると腐る。
時間も同様なのだろうか。
私は答えを知らない。
荷造りは終わった。
ブランケットにくるまり最後の夜を過ごす。
生活を始めたときの
ワクワクと不安の混じっていた部屋は
いつの間にか
たくさんの思いの詰まった空間になった。
目を閉じれば
友人たちとの笑い声が聞こえる。
失恋して泣き枯れた声が聞こえる。
仕事の愚痴を漏らす声が聞こえる。
仕事帰りの晩酌、ビール開栓の音が聞こえる。
そんな空間もあと一日で
また無機質な空間に戻る。
この空間は
誰かの思い出の詰まった空間になるのだろうか。
楽しかったな。
寂しかったな。
辛かったな。
充実してたな。
色んな思いが混ざった気持ちが
「懐かしい」なのかな。
もうこの部屋に戻ることはない。
ありがとうございました。
7年間おせわになりました。
ふとした時に思い出して
懐かしさが心にあふれるときまで
朝と天気違うじゃん。傘持ってないのに。
そう思いながら窓の外を眺める。
強まる雨音に、静かな憂鬱を感じて
自分が落ち着いているのか苛ついているのかわからない。この気分をどう形容しようか私には適切な語彙が思い浮かばない。
しばらく窓の外を見ていたら一本の光の筋。
あ、あそこから晴れていくのかな。
窓を叩く雨音はだんだんと勢いを弱め、
ゆっくりと光の筋が太くなる。
雨が止む頃にはスッキリとした秋空が見えた。