9/7/2022, 4:24:52 PM
【踊るように】
音楽は好きじゃない。
踊りも好きじゃない。
私は音痴だし、運動音痴だし、
好きになれる素質がそもそもないわけ。
感性も鈍いから、鑑賞で得られる感動も薄いしね。
何より、陰キャなもので。
しかも、特別ひねくれてるタイプの。
他人を下げることで、自分を上げるタイプの。
陽キャを見下せば、お手軽に自尊心を満たせるタイプの。
私はそういうクズだから、
パリピっぽい遊楽はどうにも受け付けられない。
歌ったり踊ったり――それを楽しそうと思えない。
まぁ、楽しいと思う人だけやればいいわな。
私は思わないからやらない。
ただそれだけ。
(本ッ当に嫌なヤツだなぁ、私って……)
わかってる。
わかってるから、秘めて嫌って否定するの。
どんな悪感情でも、心の外にさえ出さなければ問題ないし。
(仕事をしよう……)
(仕事だけしていよう……)
私みたいなのはそれでいい。
それが一番の社会貢献になる。
(よし、今日も頑張りますか!)
データを入力するだけの簡単なお仕事。
回ってきた伝票たくさん。
面倒なんて思わない。
むしろ、多ければ多いほど燃えるくらいだ。
「中田さんのタイピングって、なんだか踊ってるみたいよね~」
隣のデスクの葉山さんの言葉に、思わず指が止まる。
「…………」
にこっと笑い掛けてくる葉山さん。
仕事よりもお喋りが好きな葉山さん。
音楽も踊りも当然のように好きな葉山さん。
「……あは、そうですかねぇ」
私に出来たのは、ぎこちない笑顔で曖昧な言葉を吐くことだけだった。
―END―