【奇跡をもう一度】
奇跡なんていうものは一度で十分。
『あの奇跡をもう一度』なんて願うからろくでもないことになるんだ。
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何かもう少しこの続きを、と思ったのですが、上手く書けないのでまた今度。
【たそがれ】
たそがれ、黄昏。どんな状況だろう。
語源を考えたら、顔の判別がつきにくいくらいに暗くなった頃、でも完全な夜になる前を指すのだろうが……
今の私の生活環境だと、そんな曖昧な時間帯はほぼ無い。
昼の明るさの後は夜の暗さ。
ともすると夜の暗さも明るさに上書きされる。
たそがれ、というのはなんだか情緒があって、良い言葉だと思うのだけれど……
その言葉の意味に合った状況が身近になくなってしまっているのは、ちょっと寂しい。
【きっと明日も】
「おら、走れ走れ」
容赦のない先輩魔術士に脅されて、必死に前に進む。息が上がり、喉がひりつく。手足が縺れて転びそうになった。
「おれ、まじゅつ、し、なのに。なんで」
どうして走り込みなんてさせられてるんだ。
「そんな体力なくて遠征なんか行けるかよ」
「おいこら、歩くな。走れって言ったろ」
「魔獣は待ってくれねぇぞ」
「止まるな、死にたいのか」
もう無理、動けない。
口から心臓出そう。
まさかこんなのが栄誉ある王国魔術士団の本性だなんて知らなかった。
魔術士の集団って、もっとこう、本とか読んで研究して、不健康そうだけど頭は良くて、塔に引き篭もって出てこない、みたいな感じじゃないのか。
なんで走り込みと筋トレが日課なんだ。
辞めてやる辞めてやると毎日思っている。
昨日も思ったし、きっと明日も思うだろう。
だけどその度に。
先輩の無駄のない美しい魔術を見せつけられ。
英雄と呼ばれた人の逸話を聞かされ。
憧れの団長が顔を見せてくれたり。
よくやってるよ、なんて褒められて。
やっぱり辞めたくない。
そう思うんだよなぁ。
もう一度耳鼻科に行くべきか……
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【静寂に包まれた部屋】
『静寂』なんて言葉と縁がなくなってからどのくらい経つだろう。
耳鼻科で異常はないと言われ。薬で一度は落ち着いたものの、すぐにまた再発した耳鳴り。
昼間はまだいい。
何かをしていれば気も紛れる。
寝ようとする頃には、部屋が静かであればあるほどその耳鳴りが気になって仕方がない。
静寂に包まれた部屋が、私には喧しくて仕方がないのだ。本当に、煩わしくて、不快で。
仕方なく、音楽を流す。誰かの声を聞く。
耳鳴りに集中してしまうのをやめることで。
やっと、どうにか。
今の私にとっての『静寂』が訪れる。
【別れ際に】
別れ際に、あんまり寂しくなったから。
つい、言ってしまったの。
「あなたと、一緒に暮らしたいな」