秋風
今年の秋もほんの一瞬だった。
体感では正味三週間あったかなかったかくらいではないか。
このときにしか着るチャンスがない薄手のレザーブルゾンを着ることを毎年楽しみにしていたはずなのに、今年はうっかり失念してしまっていた。
気付けば秋風どころかすっかり寒風が吹きすさんでいる。
もう四季折々、季節の移り変わりを楽しむ風情はこの国では味わえなくなってしまったのかもしれないな。
お題
秋風
あなたとわたし
出会った瞬間、稲妻に撃たれたように人を好きになったことが人生で二度ほどある。
一度目は十七歳のとき。
そいつは二歳年上のどうしょもないレベルの浮気男だった。
常に職を転々としていて、どの仕事もせいぜい続いて三ヶ月。
休みの日は朝からパチンコ屋に並ぶような立派な下衆男だった。
付かず離れずの友人関係ののち、試しに数ヶ月付き合ってみたものの、次から次へと女の影がちらついて、早々にわたしの方がギブアップした。
二度目の稲妻は二十一歳のときだ。
その彼はわたしと同い年で、この人もなかなかの風来坊だった。
役者を目指して小さな劇団に所属し、ときどきは小さな舞台にも立っていたが、もちろんそれだけでは食べていけず、ピザ屋の配達と日雇いのバイトを掛け持ちしていた。
五歳の女の子がいるシンママに心底惚れ込んでいて、わたしなんてまったく眼中に無いどころか、視界の隅にも入れてもらえなかった。
そのままではあまりにも悔しいのと、友人にそそのかされたのもあり、ある日わたしはその彼を誘惑することにした。
前段は省くが、まぁいろいろあって、とある夜、わたしはまんまと彼と一緒のベッドに潜入することに成功した。
背中には彼のぬくもりを感じていて、わたしに回された手がこれから起こることを如実に予感させた。
でも結局は何も起こらなかった。
なぜなら、その直後、ことが起こる前にわたしがベッドから抜け出したからだ。
それ以来、稲妻には撃たれていない。
それ以降は、わたしのことを好きになってくれた人、数人と付き合ったのち、その中の一人と結婚して家庭を持った。
あなたとわたし
同じ配分で同じだけお互いを好きになる、なんてことがあるのかはわからないけれど、もしそんなことが現実に起こりうるのであれば、それはそれで一つの経験として実際に体験してみたい気もしている。
お題
あなたとわたし
一筋の光
何かを始めるとき。
何でもいいのだけれど、例えば仕事。
希望の職種を決めて、可能な範囲で勤務地を選び、出来たら給与面も考慮に入れて、さぁ就職活動!と思って探し始めても、何だかしっくりこないことがある。
多少勤務地や給与面を妥協してみたり、しまいには職種まで鞍替えしてみても、一向にそれらしきものに出会えないことがある。
何だろう?
これは何かの啓示か?
今は働くなということなのか?
なんて、そんなときは変なマインドに突入してしまいそうになる。
だけど私は知っている。
こんなときは焦らず待てばいいということを。
裏でどんなことが起きているのかはわからないけれど、人生は然るべきときに、然るべきところに導かれるようになっているのだから。
一筋の光が降り注ぐそのときを、ただじっくりと待っていればいいのだ。
ということで、私は今、絶賛職探し中です。
お題
一筋の光
哀愁を誘う
哀愁を誘うためには、多少くたびれた感じが必要だ。
かと言って、あまりくたびれ過ぎもよくない。
性別で言えば、やはり男性ということになるだろう。
年の頃で言ったら、そうだなぁ四十代半ばから五十手前あたりがいい頃か。
少し髪に白いものが混じり始めてはいるが、毛量はまだしっかりと残っている。
肌にはハリとツヤが必要不可欠だ。
髭は似合うなら生えていても良しとしよう。
わざとらしい香水は嫌だけど、加齢臭はもっと嫌だ。
体型はムキムキに鍛えているというよりは、多少崩れてきている方がよりリアルかもしれないな。
その上で、自分に似合うものを嫌味なく身に付けていて欲しい。
個人的には、黒のスラックスに白のスニーカー、上はなんてことのない白のロンTの上に紺のジャケットをさらっと羽織っているような人。
特別おしゃれじゃなくていい。
その程度で充分だ。
しかし、バックグラウンドを紐解いてみると、実は年下の元CA妻に双子の可愛らしい女の子がいたりして。
仕事は実家の事業をちゃっかり継いでいる次男、みたいな立ち位置の人。
結局、哀愁を誘うような男というのは、無理せず自然体ではあるが、目の前に差し出された運命に逆らうことなく、かと言って日々の生活もないがしろにせず、自己鍛錬に励んだ結果として、人から愛されるような素養を身に付けたたしなみ深い男なのではないだろうか。
うーん。なかなかいないですよね。
そんないい男。
そんないい男がいるなら、是非会ってみたいものです。
お題
哀愁を誘う
鏡の中の自分
私は鏡の中の女に訊ねてみる。
お前の歩いてきた道はそれで良かったのかと。
女は答えない。
ただただこちらを真っ直ぐな目で見つめ返してくる。
その目に諦めの色はない。
まだ死んではいないのだ。
私はホッとした。
まだこの先人生は続いていくのだと。
お題
鏡の中の自分