忘れたくても忘れられない
記憶に残ること。
それがもし美しいだけの記憶ならば、忘れる必要などどこにもないだろう。
いつでも好きなときに取り出し、反芻して、一人でうっとり楽しめばいいのだから。
問題は美しいだけでは済まされなかったときの記憶だ。
たいていそれは美しいに対して、相(あい)対する感情が複雑に絡み合っていることが多い。
悲しみや苦しみや憎しみや怒りなど、おそらくそんなものがないまぜになって、本来の美しい記憶を別のものに変化させてしまっている。
残念ながら、今の科学ではまだ、過ぎた記憶を書き換えることは出来ない。
こうして、忘れたくても忘れられない記憶が脳に取り残されていくのだ。
でも、一方でこう考えることも出来るのではないか。
記憶の縁に焼き付いてしまうほどの鮮烈な出来ごとを体験し、それを受容することで今の自分が成り立っているのだと。
それが起きる前の自分より、起きたあとの自分が、より自分らしくなれていたらいいなと思う。
お題
忘れたくても忘れられない
やわらかな光
やわらかな風に揺れる
やわらかな髪は
やわらかな手触りがして
それはまるで
やわらかな空気を纏った
やわらかな布が織り成す
やわらかな世界のようだった。
やわらかな眼差しは
やわらかな表情となり
やわらかな口調となった。
やがて、
やわらかな光が二人を包む。
やわらかな声は
やわらかなくちづけを誘い
やわらかな涙を溢れさせた。
お題
やわらかな光
鋭い眼差し
熱い眼差しにドキドキ
希望の眼差しにワクワク
優しい眼差しにキュンキュン
疑り深い眼差しにへきへき
恐怖の眼差しにブルブル
嫉妬の眼差しにさめざめ
羨望の眼差しにルンルン
憧れの眼差しにチカチカ
温かい眼差しにポカポカ
冷ややかな眼差しにズキズキ
差別の眼差しにガクガク
鋭い眼差しにバチバチ
お題
鋭い眼差し
高く高く
すくすく伸びやかに
高く高く天高く
そんな願いが込められた名前の幼稚園に子供たちを通わせていた頃の話である。
おともだちとケンカをした次の日、幼稚園にはもういかないと泣いた長男。
お遊戯会のリハーサルで張り切りすぎて、当日熱を出してしまった次男。
幼稚園の給食がおいしくないとタダをこねて先生を困らせた長女。
どれも大人からしたら取るに足らないことばかりだけれど、当の本人たちにとっては人生をかけた大問題だったようだ。
母は心の中でそんな彼らにいつもこう言っていた。
すくすくじゃなくていい。
伸びやかじゃなくていい。
高くなくていいし、天までなんか届かなくたっていい。
どうかどうか健康で、この先もゆっくり自分のペースで進めばいいと。
どうやら神様、その願いだけは聞き届けてくれたようで、健康だけが取り柄のマイペースな三人に無事に育ちましたとさ。
お題
高く高く
子供のように
子供の頃は早く大人になりたくて背伸びばかりしていた。
慣れないメイクをして、歩けなくなるとわかっているヒールの靴を履いて、いつも足は靴擦れだらけ。
年上の彼とのデートの日は大人びたワンピースを着て、本物の大人の女性に負けないようにと張り合って。
でもちょっとしたすれ違いが続いたある日。
終わりにしようと決めた私が着ていたのは、ラフなTシャツとハーフパンツとポニーテールに結った髪。
愛が消えた証拠を見せ付けるための格好だったのに、彼はすごく似合うよって破顔した。
今年十七歳になった娘は毎日鏡の前でのコーディネートに明け暮れている。
新作のコスメをいくつもねだられ、私のお気に入りの香水瓶からはどんどん中身が減っていく。
「ねぇお母さん、最近の服ってどうしてみんなおへそが見える丈なんだろうね。」
無邪気にそう尋ねる羽化間近の蝶々は、可愛いピンクのグロスを付けて今日も彼とのデートに大忙しだ。
お題
子供のように