《どうして君はそんななの?》
鏡の中の自分が言う。
《いつまで子供のままでいるつもり?
自分がいい年をした大人だってわかってる?》
矢継ぎ早に放たれる言葉に、僕は何も言い返せない。
だってその通りだからだ。
本当に自分が嫌になる。
精神年齢はいつまでも子どもで、人に言われるまで行動できず、相手の顔色ばかりをうかがう日々。
《ボクが君に取って代われたらいいのに》
「…僕も、君に変わってもらいたいな…」
こんな自分はいなくなってしまったほうがいい。
そんな思いをこめてつぶやくと、鏡の中の自分は一瞬驚いた表情をしたけれどそれはすぐに憎しみに満ちた表情になった。
《――…ああ、本当に。ほんとうにどうしてかな。なんで、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!!
どうしてなんの役にもたたない根暗な君が外にいて、このボクが鏡の中なんだ!!!!!!!》
眠りにつく前に、スマホにインストールした数学のアプリをひらいて、数式を忘れないよう何度も復習する。
だけど、わからないものはわからない。
勉強は苦手だ。大っ嫌いだ。
2次方程式なんて生きていくうえで必要なのか?
(x-2)(x-3)=0てなんだ?
ご丁寧に例文が書かれていたって、苦手な人間からすればそんなものなんの役にもたたない。
なぜかって?
どれだけ説明されても理解不能だからだ。
「はぁあ…勉強したくねー…頭爆発しそう…」
がんばれ、その一言欲しさに呟いてみたけれど、隣で布団に横になっていた母は、スマホを手にしたまま寝落ちしていた。
永遠、かぁ。
【永遠の愛】とか、【永遠の友情】とかほんとに存在するの?
創作物の中にしかないのでは?
そう思ってしまうくらい、僕の周りにそんなものは存在しない。
現実に存在していたとしてもそれはほんの一握りなんじゃないだろうか。
それとも、僕が無意識のうちに遠ざけてしまっているのかな。
いつか【永遠】に終わりが来るんじゃないかと怯えてしまうから。
誰にとっての【理想郷】なんだろう?
自分の?家族の?友達の?それとも他人?
自分にとっての【理想郷】だったらいいな。
だって、そこでならきっと…―――。
そんなことを考えながら、僕は静かに目を閉じた。
いまでこそ職場で同僚や上司と気さくに話すことができるが、当時はいまの職場に移動してきたばかりで不安と緊張が大きく、人見知り全開だった。
新しい人が入ってくるたびに、自分も最初はこんな感じだったなぁと懐かしく思う。
逆に過去の自分が今の自分をみたら、その関係性が羨ましいと感じるに違いない。