NoName

Open App
2/21/2026, 11:49:37 AM

0からの(オリジナル)(異世界ファンタジー)

幼馴染の仲間を失って、ラッツはひとり旅立った。
仲間を亡くす原因となった魔剣を手に。
得意だった魔法を、呪いで封じられたまま。

(もう少し、何とかなると思ったんだけどな…)
顔を腫らし、半分目が塞がった状態で、ラッツは地面に倒れ伏していた。
知らない村で宿に泊まったら、村ごと野盗の住処だった。就寝中に襲われて身ぐるみ剥がされ、身一つで外に叩き出された。
取られたのが金なら諦めるところだが、仲間の形見の品や魔剣も取られてしまった。
取り返すべく何度も村に潜入したが、すぐに見つかり、多勢に無勢、全く歯が立たない。
今も見つかって袋叩きにあったところだった。
(魔法さえ使えれば…)
己がいかに魔法に頼って来たか、痛感した。
剣術は少し使えるが、今は剣もない。
今は、傷を治してくれる仲間もいない。
それでもやはり、諦める選択肢は取れなかった。
ギラギラと怒りの炎を瞳に宿し、ラッツは決断した。
己の優先順位に従い、非情にもなりきると。
そうでなければ、この世界、生き残っていけない。
ラッツは多量の火矢を用意した。
同時に、近隣の村に赴いて野盗退治の協力をあおぐ。
野盗の村を焼き討ちし、大混乱を引き起こしたどさくさに紛れて己の私物を取り返し、その場から逃げ去った。

またある時は、毒を盛られた。
やはり宿で油断をしていた時だった。
一命は取り留めたが、やはり剣を盗まれた。
血眼になって行方を探し、なんとか取り戻す事ができたが、本当に肝が冷えた。
これは今後も想定される危機だろう。
そう思ったラッツは、毒について調べ始めた。
耐性をつけるために、毎日少量の毒を飲んだ。
何度も死にそうになりながら、やがて、かすかな臭いで毒の混入を察知できるまでになった。

ゼロからのスタートは、苦しい日々だった。
能力を失った一人旅は想像を絶するほど過酷だった。
人間、楽勝でいられなくなると、醜くも汚くもなるもので、昔より性格が悪くなった自覚はある。
人を騙し、盗み、すぐ逃げる。
何より裏切られすぎて、他人を信じられなくなった。
けれど、ラッツは平気だった。
元々、仲間の形見とともに冒険するという贖罪の旅だったので、むしろ当然の罰だとさえ思っていた。
とはいえ、魔法の道具さえ使えない呪いは正直キツくもあった。
(…これを解呪できる人を探すか)
右手の甲の呪いの紋章を眺めて、ようやく決意する。大陸を西に西に進んできて、大海の際にまで到達したが、これまでは生きるのに必死だった。
海をさらに西に行く船は出ていないようなので、今度は東に戻る旅になる。
(まずは西北端に行ってみるか)

そこでラッツは世界を揺るがす大事件に巻き込まれ、新しい仲間ができるのであるが、それはまた別のお話。

2/20/2026, 2:33:47 PM

同情(オリジナル)(異世界ファンタジー)

「聞いてくれよおおお!」
ラッツは手にした酒を机にドンと叩きつけた。
かなり酔っ払っていて、目が据わっている。
「宝探しの依頼を受けてさぁ!未盗掘の洞窟に行ったわけ。これがホント未踏なわけよ。だから罠の解除も回避も大変でさぁ!俺、めっちゃ大活躍よ。依頼人は怖がって一緒に来なかったけど、もう一組のパーティと共闘でさぁ。これがもう、あいつらマジで、全っ然役にたたねぇのよ」
ラッツの横には、旅のお供の騎士アレス。手には水。正面には、この村で合流した半獣のネオ。手には酒。
ネオの隣に回復魔法が使えるユーズ。手にはミルク。という配置である。
彼らをぐるり見回して、ラッツは続けた。
「結局さぁ、最奥で結構金目のお宝が見つかったわけ。こりゃいくつかガメてもバチ当たんねぇぞってくらい。俺が一番役立ったんだから、そんくらいの役得ないと納得いかんわけよ!それをだ!!あいつら!」
思い出してさらに激昂したラッツが、再び酒を机に叩きつけようとしたところで、ネオが無言で己の肉厚の手のひらを差し入れて、ジョッキ破壊を阻止した。
反対の手で、己の酒をぐいと飲む。
ラッツは俯いて、悔しさと怒りにブルブルと震えた。
「この俺を!!昏倒させて!!全部!!盗んでいきやがった!!依頼は失敗!!報酬ゼロ!!依頼人に罵倒される始末!!おかしいだろ!!こんなの!!」
力一杯叫んだのだが、仲間の誰からも、なんの言葉ももらえず、ラッツは顔をあげた。
まずは横を見る。隣のアレスは眉をひそめて、
「ラッツさん、宝探しの依頼で見つかった宝をくすねるのは良くない事ですよ。むしろ彼らと同じ側じゃないですか」
彼の性格そのままに、真面目優等生な回答をくれた。
斜め前のユーズは、アレスの言葉に深く頷き、
「そうですよ。ラッツさん。いつも自分がやってる事をやりかえされただけじゃないですか。そういうの、自業自得って言うんですよ」
と、冷たい。
正面のネオに目を向けると、彼はニッと笑い、
「無能だと思ってたヤツらにしてやられたのが悔しいだけだろ。うかつだったな」
と、核心をグサリと突いてくる。
ラッツは泣きたくなって、空に向かって叫んだ。
「誰も同情してくれない!!!」
「「「日頃の行い」」」
即答の三人の声がそろった。
ラッツは突っ伏して泣きわめき、三人は苦笑いしながら、彼が酒で意識をなくすまで愚痴に付き合ってあげたのだった。

2/19/2026, 1:19:18 PM

枯葉(オリジナル)(異世界ファンタジー)

時空の狭間に飛ばされていたバベルの塔ごと元の場所に戻って来たら、1000年以上が経過していた。
外界から視認できないよう塔ごと大きな結界を施し、リンク達は恐る恐る外に出た。
最初に感じたのは精霊濃度の違いだった。塔内と違って外界はかなり薄く、魔法の威力は大きく減退した。
捜索範囲を広げていくと、やがて、様々な動植物と遭遇した。塔の崩壊とともに世界に散ったキメラや研究生物などが、少しの進化を遂げ、今を生きていた。

より遠くまで探索に赴けたのはレッジだった。
音速で駆けることができる彼はひとり、様々な土地まで足を伸ばした。
ライも一緒に行きたがったが、塔から離れるほど精霊の加護が薄くなり、呪われた古傷が表出して具合を悪くするので、無理は禁物であった。

ある時、レッジが皆を外に連れ出した。
結界の外、少し行くと自然豊かな森がある。
木がまばらな少し開けた広場に、皆が輪になって座れそうな切り株があった。
レッジは背負っていた盲目のヨウを下ろし、切り株に座らせると、ついてきたリンクとライにも座るよう促した。
「何?どうしたの?」
「楽しいことを教わってきたからさ。皆でやりたくて」
レッジは、にんまりと笑った。
そして、風魔法を繰り出す。
小さな竜巻状の風が、周囲から枯葉や枝を吸い上げて戻ってきて、目の前にこんもりと積み上がった。
「リンク、火つけて。すげぇ弱火でな。……消し炭にするなよ」
「難しいこと言うな」
リンクは慎重に火をつけた。
修行の成果で繊細な炎が出て、うまく火がついた。
ライがパチパチと拍手する。
つられてヨウも拍手した。
「そんで、これ」
レッジが銀色の物体を取り出して、皆に配った。
「何これ」
「芋」
「芋?」
「この状態で焚き火でじっくり焼くと、美味しい焼き芋になるんだよ」
「へぇ」
ライの目が好奇心でキラリと光った。

焚き火を囲って、各自自分の芋を世話しながら、のんびりと話をした。
レッジの見てきた村のこと、ライとヨウの研究のこと、リンクの修行の成果のこと。
「そろそろ良いかな」
芋の柔らかさを確かめて、レッジは皆に声をかけた。
外を覆っていたシートを剥がすと、中から赤紫の芋が出てきた。
二つに割ると、黄金色の断面が現れる。
ホクホクと湯気をたてていた。
リンクは竜とのキメラで熱いのが平気なので、冷ますことなくそのままかぶりついた。
思わず目が丸くなる。
「甘い!何これ!美味しい!」
「だろ?」
レッジは嬉しそうに笑った。
ライとヨウは芋に息を吹きかけて冷まし、歯だけで端の方に齧り付いた。
「わ!レッジ!これ美味しい!」
ヨウが感嘆の声をあげて、レッジに微笑みかけた。
ライも嬉しげに目を細めて言う。
「世の中には、まだまだ我々の知らない美味しいものがあるんですね…いや、これこそ1000年の進化の結果かもしれません。レッジ、これからも美味しいものがあったら是非持って帰って来てください」
「了解」
三人三様のらしい反応にレッジは笑って、敬礼で答えたのだった。

レッジは楽しいことが大好きだった。
大事な仲間達と、楽しい時間と記憶を共有すること。
レッジにとっては今も昔も、それが一番の望みであった。
それが叶う今が幸せだった。
こんな日々が、いつまでも続きますように。

2/18/2026, 1:55:05 PM

今日にさよなら(914.6)

このお題で最初に思い浮かんだのは、楽曲「今日の日はさようなら」でした。
友との惜しむ別れを歌った曲だと思うのだけれど、

「今日の日はさようなら またあう日まで」

「さようなら」は「今日の日」に対して言ってない?
そうすると「あう」が「今日の日」にかかっているように見える。
「今日の日」には、あえなくない?
ループものか?
明日は今日が過ぎて到達すると今日になるから、またあえてる?でも同じじゃないから「また」じゃないよな?
今日の日にさよならするとは、今を昨日にすることか?
などと…アホなことを…考えだしたら…止まらなく。

さ、今日にさよならして、明日を迎えましょう。
おやすみなさい。

2/17/2026, 11:32:12 AM

お気に入り(オリジナル)

大学が遠くなった事をきっかけに家を出た。
そのまま就職して、実家に帰るのは年に1回あるかどうか、といったところである。
どこの家でもそうだと思うが、たまに帰ると食事の量がすごい。
昔の人は子供にはお腹いっぱい食べさせる事が愛情だと思っている節があり、食べきれないほどの料理が並ぶ。
都会に出た私はそこそこ収入もあり、たまに高級料理店に行ったりもして、舌が肥えた。
実家がどれだけ貧しくて、親がどれだけ料理が下手であったか、十分にわかってしまった。
昔の好物も、今はそれほど好物ではない。
けれども、親はいつまでも情報を更新せず、昔の私の好物を山ほど用意する。
「これ、ナナちゃん好きだったよね」
ニコニコと、母が言う。
「今日、お父さんが並んで買ってきてくれたのよ」
地元のさびれたたい焼き屋さんのたい焼き。
安くて人気だけれど、薄くて値段相応のクオリティ。
母の手料理も並ぶ。
昔から美味しくなかったけれど、子供心に親を悲しませたくなくて、美味しい美味しいと言って食べていたら、こういう味が好きなのだと誤解させてしまった。
「毎回こんなに作ってくれなくて良いのに。大変でしょ」
やんわり断ってみるのだが、伝わらない。
「あなた、あまり帰って来ないでしょ。私もご馳走作ってお迎えしたいのよ。たまには良いじゃない」
さいですか。
今年も作戦失敗である。

しかし、若い頃は本当に迷惑で苦痛だったこの好意も、最近ちょっと楽しくなってきた。
少しは仕送りしているけれど、今もおそらく貧乏である親が、精一杯用意してくれたご飯。
私が喜ぶだろうと、ウキウキたい焼きを買いに行ったであろう高齢の父。
なんだかくすぐったくて、涙が出そうになる。
嬉しそうな両親を見て、私も嬉しくなる。
あと何回、こんな時間を過ごせるだろうか。

Next