僕はその人の瞳を見ただけで、その人のことが大体分かる。
人の目には景色が映る。その景色で、僕は相手が何を考えているかが分かった。
まあ、その所為で苦労したものだ。
まず、僕はお金持ちの家の生まれだ。
そんな僕に近づいて来る人は、家のお金目当てばかりだ。
それが全て分かる。幼少期からずっと。
普通に嫌になるだろう?
中には僕とただ、友達になりたい人も居たけど、最初はそれも嘘じゃないのか?なんて疑ったりした。
会う人全部が僕の敵に見えて、辛かった。
と、そんなこんなで色々あったおかげで僕は普通に病んだね。
家では荒れて、外では誰とも話さない。
人と話すことがあっても人の目を見ることなんて出来やしなかったよ。
僕は人を嫌いになり、人は僕を嫌いになった。
どうしようもなくなり、元いた友達もいなくなり、高校生にもなれば僕はひとりになった。
そんなある日、教室で僕に話しかけてくる物好きな女の子が現れた。
名前は角田目 凛と言うそうだ。
いや、僕が尋ねたんじゃないよ?彼女が急に僕の耳元で名乗ったんだよ。
理由を聞いたら、
「漫画で知ったの。相手の名前を知るにはまず自分から名乗ることが礼儀だって」
いや、だからと言って僕の耳元で名乗りをあげてもいいわけないんだけどね?
と僕は抗議したけど、彼女は笑うばかりで聞く耳を持たない。
酷いものだ。
だけど、少し楽しかった。
彼女は、僕に毎日話しかけに来てくれた。
僕も最初は面倒だったけど、無視した方が面倒になったので、話は聞く様になった。
彼女の話すものは実にくだらないもので、りんごジュースおいしいよねー?とか、スマホの充電1%ギリギリまで使うのがモットーとか、ホントにくだらなくて。
笑ってしまった。
僕が笑うと彼女も嬉しそうに笑うので、なんだか心がぽかぽかした。
いつしか彼女の見せる笑顔が好きになり、その笑顔を見たくていつも僕は笑うようになった。
僕も話したくなったから、彼女にお話しした。
すると、彼女は僕の話を真剣に聞いて、笑ったり、怒ったりした。
時には泣いたりして、僕が慌てる羽目になった。
だからと言って、僕達は話さないことは無かった。
高校卒業の頃、僕らはいつも通りお話した。
高校生活楽しかったね、と。
それは、君のおかげで楽しかったんだと言うと、彼女は
「それじゃあ、明日からも毎日話そうね!」
「そうだね。それよりもまず今までのことを一緒に帰ってお家で話そうよ。
僕はまだ話し足りないんだ」
彼女は一瞬ポカンとしたけど。
どうやら、僕の言いたいことは分かったようで。
「これからもよろしくね!」
と彼女は今まで以上の笑顔を見せてくれた。
ふと、夕飯に思い返す。
そういえば、彼女の目はいつも笑顔で見えなかったなと。
だから、目の前のいる彼女の目を見て僕は驚いた。
「綺麗だ……」
「んー?どしたのー?」
彼女の目は晴天の様に綺麗に澄み渡っていた。
「ママー?パパがないてるー」
「そうだねー。私の料理が美味しくて泣いてるんじゃない?」
彼女のその澄んだ瞳に映る景色には、僕ら家族がいた。