約束は果たせなかった
遅かった
間に合わなかった

昔、有名な桜の名所に行った
ひらりと舞った花びらが頭に落ちた
「ついてるよ」と笑いながら取ってくれた

この旅が終われば別々の道を歩む
この場所に一緒に来ることは二度と無い
そんなことを微塵も感じさせないまま時間は過ぎた
旅の終盤は色んな思い出を語った
帰路に着き、「元気でね」と短い言葉を交わして見送った

あれから数年後
また同じ場所に立っている
あの時の桜に心の中で報告
隣には違う人
「花びらついるよ」と笑いながら取ってあげた

買い物終わりに
車に戻ると
こちらに手を振る人が
誰かしら？と首を傾げたら
新手のセールスだった
当然丁重にお断りさせて頂いたが
知り合いかも？と思わせる雰囲気と演技はさすがだと思った

雪国の春は遅い
芽吹きのときはまだ少し先のようだ

少し寒い秋の日
庭の落ち葉を掃除をしていた
休憩するために縁側に靴を置いて家に入った
再開しようと縁側に向かったら
猫が靴に入って暖を取っていた
お願いしても一向にどける気配は無い
仕方なく別の靴を履いて掃除をした
しばらくしたら気が済んだのか、体が暖まったのか
猫はどこかへ行った

靴が汚れていないのを確認して
試しに履いてみる
かすかに暖かい
秀吉かよ（笑）と軽く吹き出す

雪が降る前の寒い日に思い出す
錦鯉のような美しい柄の三毛猫がくれた
あの日の温もり