その日目を覚ますと、外は快晴だった。
雨が降らない日は、本当にいつぶりだろうか。少なくともここ二ヶ月間まるまる降り続けていた。
そのせいで標高の低い私の町は足首のところまで水がたまり、このままじゃ町が沈むんじゃないかとまことしやかに囁かれていた。
実際、私もそう思っていた。日に日に増す水かさに、恐怖と諦めを感じながら傘を差し、厚底の長靴を履いて、いつ行けなくなるかも分からない学校へと足を運んでいた。
明日もきっと雨が降っていて、また今日より少し町は沈むのだと、この町から離れなければならないのだと、そう布団の中で考えては憂鬱な気持ちに浸り、気付けば朝になる。そんな生活をずっと続けていた。
私は最早何も考えず、寝間着のまま外へ飛び出した。
日の光を浴びたかった。引かない水が足元をぐっしょりと濡らすが、どうでもいい。ただ、ただ日の光を、待ち望んだそれを、浴びたかった。
そうしたのは私だけでなく、近所の人達も家から飛び出していた。そして一様に、眩しい太陽を見つめていた。
長く待ち望んだ、暖かな陽射し。足元の普段は冷たい水も、日の光で暖められぬるくなっていた。
そうだ。もう春が来ていたのだ。雨のせいでいつだって寒く、すっかり忘れていた。
今は、ただ、何も言えないほどに、嬉しかった。
きょうのおだい『ハッピーエンド』
思い浮かんだのでもう一つ
パタン、と私は読んでいた本を閉じた。爽やかな読後感に満たされながら、読後の余韻に浸る。
読んでいた本の内容はいたって王道なファンタジーモノだ。
突如として現れた魔王を倒すべく田舎の村で暮らしていた普通の少年が旅に出る、というもの。
主人公は最初、へっぽこで、最弱とされるモンスターでさえ倒すのに苦戦して。それでも、大切な故郷を守る為、何度も何度も戦いに挑んで。
そんな主人公の姿に惹かれた仲間と出会い、徐々に強くなっていき、衝突しながらも分かり合って絆を深めて、最初は見向きをされなかった主人公を、多くの人が認めるようになっていった。
そしてとうとう主人公は、仲間達と共に勇者を打ち倒すことに成功するのだ―――。
最初こそ、ヤキモキした。この何もできない主人公に。
抱える信念と、強さがまったく伴わなくて。うじうじすることもあって。
私にとって主人公とは、ある種初めから完成された存在だった。勇敢で、優しくて、そして強い。それこそが主人公であり、そうあるべきだと。
でもこの本を読み終わった私の、主人公というものに関する考え方は、少し変化した。
彼らだって、悩むし、弱いのだ。「仲間がいるから」というセリフにどれだけの意味があったか。
勿論、今までの主人公達は大好きだ。そうであって欲しいとも思う。
けれど、最初から強い存在など、いないのだ。そこを、この本は丁寧に書いていた。
…きっと私は、この主人公と私自身を重ねていたのだ。
いや、彼だけじゃない。今まで主人公と呼ばれた全ての人物に、私は自分自身を重ねてみていた。
自分は弱いと理解しているから。だから、初めから強い存在を望んだ。弱くありたいとは、思わないから。
だから弱いこの主人公が、嫌だった。自分の弱さも見せられるようで…。きっと、そうなのだろう。
でも、この本で…弱くとも信念を貫く姿は、人を惹きつけ、結果的に自分自身も強くなれると知れた。
勿論、この本で世界の全てがわかるわけじゃない。
でも、気付きを与えてくれたのだ。私にとって、それが一番だ。
この本は、私の生涯の指針になる。気がした。