[開けないLINE]
元カノと別れてもう1年半になる。
「友達としか見れんくなった、ごめん。」そう言ったのが最後に聞いた彼女の声だった。
何度も連絡しようと思った。たとえ友達になったとしてもまた会ってくれるならそれでいい。そう思って別れたのに、・・・それから音沙汰が無い。
向こうから連絡してくることは無いだろう。フッた元カレに自分から連絡するのはこっちよりもハードルが高いと思うし、何ならもう俺の事なんて忘れているかもしれない。だから俺の方から行動しなければ会えない。そんなことはわかっているのだが、連絡はおろかLINEすら開けていない。開けない。グズグズして1年半もたった今ではその年月もプラスして尚更だ。
何に対してなのかはわからないが、怖い。そして何より緊張する。
今、これまで同じ極の磁力のように触れず、開けなかった彼女のトーク画面を開ける。そして、想いを押し殺して最大限の空元気で
『久しぶり!いきなりやけど久しぶりに遊ばへん?』
と、久しぶりを2回も言っている変なLINEを久しぶりに送る。
[香水]
その店を見つけたのは高校1年の6月くらいのことだった。
華の高校生になって浮かれていた気分もまだ冷めていなくて新たな環境で友達が出来て余計に舞い上がっていた。
その日はバスケ部の見学があり、友人は皆そっちに行ってしまったため一人で帰ることになった。少しの寂しさがあったが、一人で帰るというのが久しぶりすぎて観光客のように街中を物珍しくキョロキョロしながら帰った。
その中で家まであと半分と言ったところにものすごくお洒落な店があった。純白のウェディングドレスのような内装の中にまるで宝石のような瓶が小さな机の上にこれまたお洒落に並べられていた。カウンターの裏側にもバーのお酒のようにその瓶が陳列されていた。そこまで見て初めてその店の看板が目に入った。香水を売っているそうだ。物珍しく見ていると、店の扉が開いて「中に入る?」という声が聞こえた。ハッとして振り返ると、この店の店員だろうか、女性が話しかけてきた。その女性はとても綺麗というか、可愛いでも美しいでもなくて、なんというか、、、そう、可憐だ。可憐な女性が中に入るか?と聞いて来たのだ。こういう事があまりなかったせいか、ドギマギしてしまって「いえ、俺は男だし、まだ高校生だから」と言った。分かっている。今の時代、男だろうと子供だろうと香水くらい誰でもつけたりしているのは分かっているのだが、照れ隠しもあって素っ気なくそう言ってしまった。しかしその女性は、「男の子でも高校生でも香水付けてて恥ずかしくないよ!1回入ってみない?気になってたんでしょ」と優しく言ってくれた。今度は素直に「有難うございます」と言うと女性はニカッと笑ってドアを開けて招いてくれた。
店の扉をくぐった瞬間香水のいい香りがした。そこまで強くなく、ごちゃごちゃもしていない、光の三原色の真ん中のような混ざりあった結果透き通った香りがした。ひとしきり香りを堪能した後、周りを見渡すと女性はいつの間にか店の奥に行っていた。店の中でどのようにいれば分からずソワソワしていたが、とりあえずカウンターに座った。すると店の奥から女性が出てきて、「香水つけたことある?」と言われたので、「今まで興味がなかったので、あと、自分に合う匂いとか分からないんで」と答えた。すると、「じゃあさ、全部試してみようか!」と突拍子も無いことを言ってきた。頭では「は?」とか「え?」とかそんなのどんだけ時間かかんだよと思った。しかし、何故かは分からないがこの時「はい!」と答えた。それから毎日その店に通い、香水を試した。
それから数日後、まだ全部試しきれてはいないが、自分に合うものが見つかった。とても嬉しかったのを覚えている。その後もその店には通った。最初は自分に合う香水を見つけるために通っていたのだが、下校時にそこによるのが習慣となっていた。ある日、いつものように美咲さん(女性)と話していると、店の奥からガタイの良いイケメンが少し大きめの箱を持って出てきた。男は「美咲、これはどこに置けばいい?」と言っていた。そこからはあまり覚えていないが、胸の奥に幾重にも絡まり、重くなったワイヤーがあるかのような感覚におちいり、逃げるかのように帰ったのは覚えている。
その店とは少し疎遠になった。
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「お父さんおかえりー!今日もいい匂いがする!」
仕事から帰って娘からそう言われる度に私の最初で最後の初恋のことを思い出す。
そういえば、あの時義兄さんに嫉妬してたんだっけ。
明日も妻に作って貰った香水をつけて出社する。
[言葉はいらない、ただ・・・]
先日姉が自殺した。
朝起こると何時も自分より早く起きている姉がリビングに居なかった。珍しく寝坊でもしているのかと思って、朝食を食べた。食べ終わってもなかなか起きてこないので、流石にもう起きなければ学校に間に合わないと思って姉の部屋へと行った。ノックをしても返事がない、もう学校に行ったのかとも思ったが、なんだか嫌な予感がした。抽象的すぎるかもしれないが、なんというか頭の中に半透明のどす黒い何かがおおっているかのような感覚がした。「入るよ」と言って中に入った瞬間、嘔吐してしまった。中では姉が首を吊って自殺していた。姉を見て吐くとは、と自己嫌悪に襲われた。後に大人たちから仕方がないことだと言われたが、それでも両親のいない中で明るく、家族の温もりというのを感じさせてくれた姉を見て吐いた自分がどうしても許せなかった。そういう事も姉はわかっていたのだろう、僕には一切弱みを見せたことがなかった。それが姉の重圧になっていたのでは無いかと今になっては思う。机の上に置かれていた遺書にはただ一言『ごめんね。』と書かれていた。
後の調査で姉は学校でいじめられていたことが分かった。
言葉はいらない、ただ何かしらサインを出してくれれば、SOSを出してくれれば何か助けてあげれたかも知れないのにという気持ちと、知って僕に何ができるんだという気持ちで板挟みになっている僕はどう生きれば良いのだろう。
どうすれば良かったのだろう。