ベルが鳴ったので
お腹の中からでてきたの
扉を開けて
そして
もう一度ベルが鳴ったら
私の持ち時間は終わり
遠くで誰かのためのベルが鳴るのを
優しい気持ちで聞いている
止まった時計を見るとなぜか寂しくなる。
なんだろう、取り残された感覚。
動かない秒針とか切なさの極み。
あと、ミニチュアハウスも苦手。
繊細な細工にワクワクする反面、誰もいない生活感溢れた小さな部屋に、突然 寂寥感が襲ってくる。
こういう自分だけがダメージ受けちゃうモノって、
思い出せない過去に何かがあったのかなあ。
きっと周りの人も、私には想像もできない何かで寂しがっているのかもね。
冬は一緒に考える。
今年のクリプレとサンタの演出はどうしよっかって。
サンタを信じてくれる期間なんてほんの一瞬!
ふたりであの手この手で息子の希望を聞きだし、
今年はベランダにサンタの足跡つけてみようとか、
オーナメントクッキーにかじったあとつけようとか、
雪が溶けた後の水を用意しようとか…。
ふたりで考えている時間も楽しい。
タイムリミットが迫ってきてる。
まだまだ、信じていてくれていたらいいな。
「風邪うつしちゃったのかな
私、最近ずっと咳してたし」
今日は川西が発熱で休み。
「何か悪いことしちゃった」
目の前の紗奈が心配そうな顔をつくる。
でもわかってる。
これは、川西と自分が風邪がうつるぐらい一緒にいるっていうアピール。
「昨日の夜 話したときは元気そうだったのにな」
何もわからないふりしてそう言うと、紗奈の顔が一瞬ゆがんだ。
「さっきもLINEきてたし、大丈夫でしょ」
追い討ちをかける。
当人がいないところで不毛な争い。
風邪ひいてる場合じゃないぞ馬鹿男。
ゆきふらばわがつみがゆるされむ
室生犀星の詩だっけ?
いつ聞いたかも覚えてないのに、なぜか忘れられない。
雪国生まれではないから、
たまの雪には純粋にはしゃぎたくなるんだけど、
降り続くうちに世界が真っ白になっていくのは怖い。
外界が見えなくなるぶん、自分の心に意識がいってしまうのかな。
雪のニュースに浮かれてたことが嘘みたいに、心がとつぜん静かになる。
言えないこと、忘れたふりをしていたこと。
雪が降る日は、妙に思い出してしまう。