Keito

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2/4/2024, 2:59:13 PM

「んー…おはよー…ふふっ、くすぐったいよ。」

毎朝、ワタシに向けられる、ふやけた笑顔。
そのゆるんだ口元に、ほっぺたに浮かんだえくぼに、ワタシは更にぬくもりを落とす。

「ははっ、なんだよ、お腹空いたのか?…時間…あー…寝すぎたか…。わりぃ、わりぃ。」
優しい大きな手が、ワタシの頭を撫でる。



違う、違うの。



「貴方が目を覚ましてくれて嬉しいの」
「貴方が目の前で笑ってくれているのが嬉しいの」

この言葉は、この想いは、貴方の目を見つめているだけじゃ届かない…。
だけど、貴方の目が今日もワタシを見つめていることにほっとして、ただ見つめ返してしまう。
毎朝、毎朝。


「…お前さ…俺が目を覚ますと、安心した顔しない?」

え?

「じいちゃんのことも、こうやって起こしてたのか?…亡くなった日の朝も。」

…そう、そうなの。
彼は、あの日、目を覚まさなかったの。


ずっと隣にいて、どこにでも一緒に出かけていた、愛しい人。
「稲穂みてぇに綺麗な毛の色だから、『コガネ』だな。」
その名を何度も何度も、手のひらに収まっていたときから、最後の眠りにつくときまで呼んでくれた、ワタシのご主人様。


「突然、だったもんな…。もう5年…なのか、まだ5年なのか…。お前の気持ちはわからないけど…そりゃ、不安になるか…。」

そう、そうなの…伝わっていたの?

「よしっ!」と貴方はいつも通り、一言気合いを入れて布団から起き上がった。

「ちょっと遅くなったけど、飯食ったら散歩に行こうぜ!今日はなんも予定ないし、お前の気が済むまでさ。…俺は、お前より先には死なねぇから、安心しろよ!な!」
そう言いながら、貴方はわしゃわしゃとワタシの頭を撫でた。

あぁ…あぁ…愛しい貴方。
ワタシの気持ちが伝わるくらい、貴方との生活も長くなっていたのね。

「ワン!」

貴方がワタシのご主人様。
二人目の大事な、愛しい人。

お題「kiss」