よぉ、長谷川どうしたの?
スマホ、調子悪かったから機種変。
へぇ、何がダメだったの?
LINEが開けない。
そっかぁ、LINE無いと今や何にも出来ないもんなぁ。
どれくらいダメだったの?
三日? あちゃー、大事な連絡とか来てんじゃないのか?
あ、でも週末挟んでの三日・・・
遊びの誘いとかあったかもよ。
ちょっと、見せて見せて。
いいよ? ありがとう。
ああ、起動に時間かかるもんなぁ。
しかし、あれだ。週末といやぁ、山岡が作ったグループLINEで結構みんな書いてたなぁ。
え? 知らない。
・・・
ああ、あれはまだ入ってないかぁ。
今度、招待しとくよ。
でも、ほらサトミが作ったグループLINEで来月皆でキャンプ行こうって・・・・
それも入ってないのかぁ。サトミから直接連絡あるかもだよ、うん。
ま、ほら開けてみ、三日もあれば沢山連絡来てるはずだからさ
・・・
・・・
・・・
よかったぁ。ミホコ? 女の子から連絡きてんじゃん。
え? 彼女? なんだ長谷川やるじゃん。
うん?
さようなら
ああ、うん、連絡してみ、そしたら、うん大丈夫だと思うから。
うん、それじゃあ、俺いくよ。
なんかゴメン。
・・・・
・・・・
俺、アイツのLINE送ったことあったっけ?
あれ?
そもそも、アイツのLINE知ってたっけ?
・・・
・・・
僕という字が不完全なのよ。
つくりが、『業』という字から一本足りなかったり、
美しいっていう字からいっても、一本足りないでしょ。
だから、元々『僕』は不完全なの。
不完全な僕
は
頭上を見上げる
とか
頭痛が痛い
と、同じなのよ。
完全な僕
はあんまり言わないでしょ。
完全は俺よね。
うん?
僕がカフェオレで
ラテが君
アイスミルクティーが彼で
モーニングセットは、無しで。
「いいか、これがボスから言われたターゲットだ。ヤス、今回はお前がやれ」
「兄貴、ありがとうございます」
「今日の夜のパーティー、20時ちょうどに俺が電気を消す。暗闇の中でこいつをやれ」
「すいません、どうやってやるんすか?」
「この香水。これはターゲットが特注に使っているものと同じものだ。これに、特殊な液を入れておいた。そしてこのメガネだ。これをかければ、暗闇の中でも赤く光って見える。それを目印に任務を遂行しろ」
「心臓を一突き」
「バカっ!ヤス。いいか? 心臓なんて、肋骨があってそうそう突けやしない。それより、この香水だ、どこにつける?」
「どこっすか?」
「こうだよ、こうやって手首と首から耳裏だよ。ほら、どっちも太い血管が通ってるだろ? メガネかけて、赤く光ってるところそこを切り裂け」
「なーるほど、兄貴、香水つけるの上手いっすね」
「まぁな。結構、遊んでるから・・・んなこたーいいんだよ。いいか? しっかり切るんだぞ」
「はい」
*******************
「次のニュースです。今晩20時頃、都内のパーティー会場で殺人事件が起こりました。
殺されたのは、犯罪グループの兄貴分。殺したのは弟分だということです。グループ内での仲間割れが原因だとみて捜査を進めて下ります。
また、弟分のほうは容疑を否認していて、『兄貴も香水つけていて、間違えた』とよくわからない供述をしているそうです。
次のニュースです。レッサーパンダのあかちゃん・・・』
俺のはじめての個展。
それはそれは、力が入った。
これまでの人生で最高の物を並べた。
新しくも書いた。
並べ方にもこだわった。
フライヤーも自分でデザインした。
キャッチコピーは
「言葉はいらない、ただ・・・」
これがいけなかった。
ただ
なのに
フライヤーには
タダ
と表記され、作品すべて無料だと勘違いされた。
俺は止めた。それでも、タダならとどんどん、運び出された。
作品は個展期間の半分で無くなり、
業界では
「タダという新たなスタイル」
という事で、俺は一躍時の人になった。
あれから10年。
また、沢山の作品をつくった。
次こそは、次こそは本当の、本来の評価を得たい。
そして、俺はこれで対価を得たいと思っている。
この10年で最高の物。
最新の作品を生み出し。
見せ方も10年前よりもブラッシュアップしていった。
フライヤーの最終チェックも怠らなかった。
コピーは
「言葉はいらない、ただし有料」
少し、ユーモアもいれたつもりだ。
なのに、
なのに、
個展期間、半分も過ぎたのに
どうして
誰も来ない?
残りの期間、タダにしよう。
ガチャガチャ
君は突然、僕の部屋に来た。
合鍵は渡して合ったし、別に好きに使っていいよと言ってある。
でも、急に。
僕は、珍しく平日休みだったので、出迎えると。
「あ、いたの」
と、挙動不審な態度。
コーヒーを飲みながらでも、焦点は僕には合わない。
とはいえ、僕もやましい事が無いわけではないので、ドキドキなのだ。
余裕の態度をみせるべく、ベランダで一服する事を告げると、室内に痕跡が残って無いか反芻する。
多分、多分大丈夫だ。
一旦、落ち着いたので部屋に戻ると
「あ、まつげが・・・洗面所貸して」
と、彼女は部屋を出て行った。
僕はその間に部屋を見渡し、確認。
うん、大丈夫。
「よかった、あ、あと会社から電話だからゴメン行くね」
残りのコーヒーを一気飲みすると、彼女は出て行った。
ふーっ。
女の勘は鋭い。
俺が遊んでる時に不意にこういう事があるから恐ろしいんだ。
もう一度、タバコを吸おうとベランダに出る。
でも、
でも、あいつは何しに、家に来た?
本当に女の勘?
そういや、僕は出張で家を空けてる時があったな。
あいつ・・・
この家で・・・