疲れていた
猛烈に
もう一つの物語を
期待し想像し
疲れた魂を
そのもう一つの可能性に賭けてみたかった
これすら存在するのかわからないのに
もう一つ物語があると思っていたんだ
「もう一つの物語」
帰宅途中の暗がりの中で拾ったのは君の尻尾だった
私の元を飛び出し人になった君の
きっとどこかで
新しい愛を温め合っているのだろう
途方に暮れる私は
これをどこかに捨てるだろう
きっと
「暗がりの中で」
漠然と
ただ漠然としたこの感情は
誰に向けているのかさえわからない
ふと口についただけの言葉かもしれないのに
どうしようもなく纏わりつく感情は
いつしか染みついて
内側からじわじわと私を侵食する
行かないで
どうして
どこに
誰が
私が
漠然としたこの不安を
苦しんでいるのか楽しんでいるのか
わからないけれど
行くということは消えること
今からここから消えること
消えるは無限
消えるは不思議
行かないで、の呪縛
「行かないで」
空の表面だけをなぞるように
眺めていると
ほら
どこまでも空は青く続いている
丸い丸い空は
地面の中のコアに
必死にしがみついている私と同じだろうか
助けて
ほんの隙間から逃げ出すしかないの
涙も吐息も
ぐるぐると螺旋の中で揉まれ続ける
「どこまでも続く青い空」
「あ、もう衣替えか」
という季節感がなくなってきたこの頃、昔を顧みると、10月1日には、一斉に冬服姿で登校していた。
今では、夏でも長袖のブラウスを着て袖をまくっている生徒を見かける。
セーターを着ている生徒もいる。
教室には冷房が効いているから、とか、ファッションとして格好いいからとか、様々な理由があるらしい。
自由。
個性。
個人差、ということだろうか。
テレビなどで流れる天気予報で気温と、服装指数なるものも確認する。
男は世間の変わり様に時の流れを感じた。
ふーう、と長くため息をついた。
いつからだろうか。
寒さも暑さも、体温すら感じなくなったのは。
それと同時に誰からも気づかれなくなった。
「俺はここにいるのに」
人肌の恋しさは日に日に増すばかりだ。
ある日、デパートのトイレに入り手を洗った。
その時にふと鏡の中の自分に触れた。
それからだ。
どうやら俺は鏡と入れ替わってしまったようだ。
今まで他人に興味を持つことはなかった。
それなのに、今ではいつでも他人を見なければならない。
自分の姿を様々な感情で見つめているところは、見られたくないだろうなあ。
俺は嫌だ。
目をそらしながら、ちらりといろんな顔を見る。
少しでも温もりが欲しい。
誰でもいい、気づいてくれないだろうかと毎日、願っている。
「衣替え」