「数はね、ゼロから数えるものよ」
『なんだよ突然、インド人かよ』
「いやゼロの発明の件は置いておいて。0から始まり9でひとまとまり。10からは次の段階へステップアップってことなの。1〜10って、最後だけ“10”で急に桁が増えるでしょ? 落ち着かないのよ」
『そう言われてみれば、そうかな!?』
「2進法は0と1でしょ? 10進法は0〜9なのよ、わかる?」
『いや、そうかもしれないけど、おまえ、そんな情報処理野郎だったっけ?』
「なによ、その情報処理野郎って?」
『それはテキトーに言ったんだけどさ。ちなみに、ここにクッキーが10枚あるんだけど、すごく半端なので1枚無かったことにして俺食べちゃうわ。0から始めるとこうなっちゃうぜ!』
「飛躍してない?」
『しかも、この9枚もふたりには割り切れない奇数なので、俺がもう一枚食べちゃうわ』
「それは私が食べてもいいんじゃない?」
『これでやっと自然科学的に安定した状態になる。これをふたりで分けよう。はい4枚どーぞ』
「だって10枚あったんだから、5枚ちょうだいよ」
『さっき、ゼロから数えるって言ったよな? いわばこれは0からの世界の答えなんだよ……』
ヤツは銃口を向けてこう言った。
「同情するよ」
そしてゆっくりと引き金にかけた指に力を込めた。
バンっ。
火薬の臭いが立ち込める。
ヤツは表情ひとつ変えずに崩れ落ちていった。
「それはこっちのセリフだ」
隠し持っていた小さなピストルが熱くなっていた。
自身のために尽くした緑葉たちは枯葉となり、色良し、舞い良し、音良しと、最後は他に尽くす。
目覚めると昨日の朝だった。
6時59分に目覚め、目覚まし時計が鳴る前に止めようと手を伸ばすが落としてしまい、鳴ってしまうという小さな不快で始まる。そんなのいつもと同じだけど、日付は昨日のままだった。
ん?
確かに昨日だ。窓からさす光の感じ、感じる空気感、着ているもの、布団のよれ具合、みんな同じだ。
そして一日が始まり昨日をなぞって一日が終わってしまった。
全く昨日と同じだった。いやもう昨日じゃなくて今日だ。
次の日、それは次の今日、やっぱり一昨日の朝だった。
タイムループ……。
昨今、物語の定番設定のひとつだけどそれが現実に起きている。現実というより映画、アニメ、小説、俺はエンタメの中にいるのか?
なんとかしなくては「今日」だけで歳をとり死んでしまう……。
そこで今日からの脱出を試みる。
まず目的は明日に行くことだ。
寝ない。寝ないで明日に行く。
コーヒーなど用意して、まあ、そこまでしなくても夜更かしすれば明日に行けるので試してみる。明日になったのを確認して布団に入った。
目覚めると、ああダメだった。同じ日だ……。
「今日にさよなら」、続きは検討中。
お気に入りの街のお気に入りのコーヒーショップ、お気に入りの角のテーブルでお気に入りのノートを開きお気に入りの万年筆のキャップを開ける。
カチッ。
しかし、お気に入りの言葉が浮かんでこない。
お気に入りのブレンドを飲んでいる。