「遠い約束」
俺は世界で一番幸せで、俺が世界で一番君を愛するよ。
そう言ったのは私の恋人。表向きは少しヤンチャな人に見える彼が見せる私に向けた甘い言葉。そんな可愛らしい面に惚れて随分経つ。
私も世界で一番幸せで、私も世界で一番貴方を愛している。
あ、彼が一番になるなら私は二番かな、なんて事を考えて1人ニヤついてしまう。
「結婚しよう。そして世界一幸せな夫婦になろう」
ああ、もう幸せ過ぎておかしくなりそう。毎日にこにこしながら二人の生活に向けて邁進していた。
そんなある日、彼が仕事で遠方に出張になる。気をつけてね、と連絡をしてこちらも仕事をしていた。やたらと忙しくスマホもロクに見れない日だった。
私が彼からの連絡を確認したのは22時を過ぎていた頃だ。15時頃に小さな音だけが聞こえる留守番電話が入っていた。何だろうか。
「遅くなってごめんね、電話の音が小さくて聞こえないんだけど何て言ったの?」
彼からの連絡は無い。仕事で疲れて早めに寝たのだろうか。明日の朝にはまた連絡くるだろう。私も入浴を済ませベッドに横たわり寝てしまった。
翌朝スマホを見ても連絡がない。それどころか既読もつかない。どうしたんだろう…何かゾワゾワする。
朝食時テレビを付けひとつのニュースが私の耳に入る。彼の出張先に通り魔が現れ、無差別に人の命を奪ったニュース。発生時刻は午後15時頃。
あまりにもタイムリー過ぎる。彼に電話をしてもかからない。何度も何度もかけた。嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。
きっともう仕事に行ってて気付いてないだけだ。ニュースは無慈悲に続く。命奪われた人達の名前が上がる。彼の名前もそこにあった。
ゴトッ
思わずスマホを落としてしまった。嫌だ、信じたくないのに。嘘だって言ってよ。涙で視界が潤んで前が見えない。
実感が湧かないのに涙はどんどん溢れてくる。ただいまって今にも連絡があるんじゃないか。本当はびっくりさせようとして家の近くにいるんじゃないか。そう思う度彼に繋がらない電話をかける。
彼との約束は一生果たされる事の無い約束となってしまったのだ。
「好きだよ」
私達は恋人でも夫婦でもない。爛れた関係に愛の言葉を述べてはならない。それを言うと気持ちが抑えられなくなるから。
勘の鋭い彼なら表情だけで私の気持ちを汲み取ってしまうから。
グッと気持ちを堪えて快楽に没頭する。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか彼から終わりを告げられた。
好きな人が出来たとかで。私はあっさり「切られる」側に。
やだよ、寂しい。離れないで。こんな爛れても貴方が好きなのに。
「好きだ」
…いま、なんて…
「桜」
ふんわりとした柔らかなピンクの花びらが可愛らしく、まさしく春を象徴している。
穏やかな陽射しを浴び花弁を照らす姿も美しいが、晴れた日の強風に煽られ沢山の花びらが宙を舞い踊る姿の方が案外好きな人も多いと思う。
美しく咲き誇る観賞用に育てられた桜。これはその美しさに魅了された人達の思いが詰まった植物なのだ。
「君と」
出会わなければ良かった。毎日君のことばかり考えてしまう。
僕たちは出会う年月が違ったんだ。
君に早く出会えてたらこんな辛い気持ちにはならなかったのに。
会えない時間程狂おしく負の感情に飲み込まれるのに、君に会えた時は幸せな感情しか出ない。君は僕にとってのかけがえのない人だから。
こんな歪んだ関係は終わらせて早く君と一つになりたいな。
今君の間違ったパートナーを正しくしてあげるからね。
「空に向かって」
空、と聞くとパッと思いつくのは日中の青い空だろう。
澄み切った青い空に思いを馳せる事は筆者にはない。というか大体無いと思う。
夕暮れ時のオレンジ色の空や、月星輝く青黒い夜空、遠くから日が昇る白い空に、切ない思い、昼間じゃ恥ずかしくなる浮ついた思い、1日を頑張ろうという思い。
案外そんな短い時間の空の方が沢山人の声や思いを聞いているのかもしれない。