目が覚めると
カーテンを開けると気持ちの良い日差しが私を包み込む。
今日も空にはトキが飛んでるし、壁紙は虹色だし、時計は左回りだ。
螺旋階段を降りてリビングに行く。朝ごはんはレーション……
あれ?これ、夢か。
飛び起きる。空も壁も時計もいつも通りだ。ここは間違いなく私の部屋だし、昨日使って片していないノートは机の上。
一応、頬をつねる。よかった、痛い。
ほっとして、部屋を出る。なんだか訳の分からない夢を見てしまって朝から疲れていたが、顔を洗い意識を覚醒させる。
朝ごはんを食べるためにリビングへのドアを開く。お父さんがいた。
「あー、これも夢か」
目が覚めた。
私の当たり前
「なにこれ?」
「なにって、ちくわきゅうりだけど」
私と彼が同棲を始めてから数週間。朝の早い彼のために、私が弁当を作ることになっている。だから今日もいつものように朝起きて、弁当を作って、出かける彼を見送る。
でも今朝、弁当の中身について聞かれたものだから少しびっくりした。普段は何も言わずに受け取ってくれるし、メジャーな具のつもりだったから。ちくわきゅうりは小さい頃からお母さんが弁当に入れてくれたから、私にとって当たり前のものだった。
聞くと彼の家では出なかったのだそう。そういうこともあるんだと思ったし、自分の中での常識が変わっていくのを感じた。
一緒に住んでからまだ短いけれど、これから当たり前を共有できて、当たり前が同じになっていくことを思うとなんだかふわふわして、この気持ちのまま後回しにしていた掃除をやってしまおうと思った。
七夕
織姫星、ベガ。
彦星、アルタイル。
夏の大三角、ベガ、デネブ、アルタイル。
あれ?ひとつだけ仲間はずれなのか。
あんまりじゃないかと思って、検索窓を開く。
(一説によると)デネブは鵲となり、天の川で織姫と彦星のための橋となる。
はくちょう座の星なのに、とかちょっと考えたけど、降るかわからない雨を考慮して自ら橋になるデネブ、いいやつだ。
デネブみたいな人になりたい。
友達の思い出
人は一時間で記憶したことの50%を忘れてしまうらしい。
カラオケのある雑居ビルから外に出ると、もう空は赤くなっていて、友達と「夏はすぐ日が暮れるね」なんて他愛もない話をしながら駅まで向かった。
私と友達は家が逆方向だから、改札で別れることになる。またねって言って、2番線ホームへのエスカレーターに乗った。
ホームに着いて、電光掲示板を確認して、乗車位置表示に従って前を見る。
そこで、友達が手を振っていた。私と目が合う前から手を振っていた。また明日学校で会うのに。
きっとこれは50%のうちなのだろう、と思ったけど、すごく嬉しかった。
星空
昔、バカみたいに青いケーキを食べた。
四角くて青いクリームがたっぷりのったそれは、どうも気持ち悪くて仕方なかった。
味は普通のケーキだったのに、見た目が受け入れられなくて、一口でやめた。
でも眺めているうちに蛍光灯の下のアラザンが光っていることに気が付いて、すごく、星だ、と思った。
本当の星は銀じゃないし、本当の空は青じゃないけど、幼い私には星空に見えた。
その日星空を食べていた。