私の兄は 父によく似ている
無意識の仕草や 言葉遣いがほんとにそっくり
指摘すると
兄は嫌な顔をするけれど
しかめっ面の 唇の先がほんのすこし 緩んでる
兄だけが気づいてない癖
からかいたいのをグッと抑えて
気づかれないように
母と顔を見合わせて アイコンタクト
ほんとは
似てるって言われると
ちょっとだけ 嬉しいんだよね
お兄ちゃん
10
君が生まれた日に落ちた
雨が地中に染み込んで
また出会えるまで
およそ
20年以上かかるらしい
20までもの歳月に
君はどんな冒険するだろう
僕は一緒に行けるかな
同じ景色見れるかな
もしも
ないとは 思うけど
不本意にも 一緒に行けなくったって
いつだって 僕が
君を愛してるってこと わすれないで
君がひとりぼっちに感じる日だって
体ごと傍にいなくても
心だけは君の側に寄り添っていたい
君はひとりじゃない
知ってるでしょ?
僕が君を大好きだってこと
9
子供の頃から 嵐がくるといつもわくわくしてた
“嵐の夜に” の主人公達が
魅力的過ぎたのがいけなかった
雷を怖がる私に
ヤギさんはオオカミさんと出会う頃かしら なんて
ママは茶目っ気たっぷりに
中々おねむにならない私に言うものだから
嵐がくると
わくわくするようになってしまったのだ
素敵な絵本を見つけたから
今度は私が あなたにも読み聞かせしたいけれど
私のようにならないかしら
ちょっぴり不安になりながら
可愛い我が子の
掛け布団を首もとまで上げた
さぁ あなたにも魔法は掛かるかしら
ママもこんな気持ちだったの?
擽ったさを感じながら 私は表紙を開いた
8
心配性だという自覚はある
ただ気恥ずかしさが先だって
つい ぶっきらぼうな聞き方になるだけで
私と同じように分かってくれるだなんて
子供に甘えて期待しちゃだめよ と妻は言う
あの子は
私があの子に興味がない と
思っていると 思っていることを知ってるが
実は妻の
独り言に見せかけたお知らせで
色んなことを知っている
数学が好きで 古典探究が嫌い
親友は2人いること
新商品のアイスにドハマりしてること
(どんな味だと気になって買ったのに
風呂上がりに勝手に食べたことも知ってるぞ)
朝 洗面所を最低30分独占すること
料理が苦手なのに 最近急に頑張りだしたこと
それは きっと
……好きな奴ができたことに関連があること
変な奴じゃないだろうな
妻に似てふわふわで
未だ腕の中 包めるような気がするのに
愛妻弁当を鞄に入れ
髪が纏まらないと 洗面所で嘆く声を背中に
家を出る
まったく
いくつになっても 心配で仕方ない
7
いただきます って言いながら
ふと考える
あの子はちゃんと食べてるかしら
まさかゼリーで済ましてないでしょうね
もういい大人よって
周りも本人だって言うけれど
いいじゃない
私がおばあちゃんになったって
いつまで経っても 心配なのよ
しばらく声も聞けてないから
母の日だからって名目で
電話ひとつ くれないかしら
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