12/1/2023, 12:06:52 AM
「泣かないでよ」
慰めるつもりで言ったその言葉は、いざ口から出てみると、思いがけない強制力と冷たさをもって二人の間に放り出された。
涙に潤んだ目が驚きに見開かれる。
ああ、失敗したな、とぼんやり思った。
けれどそれを取り繕うことすら面倒で、その瞳に溜まった涙が零れ落ちないなら、もうそれでよかった。
だって困るのだ。
優しく相槌を打って、悩みを聞くことはできる。相手の気持ちを聞いて、相談に乗ることも。折を見て客観的な視点や反対側の考えなどを提示することだって得意だ。
けれど泣かれてしまうと、なんだか、これら全てが一気に生産性のない無駄な行為のように感じられるし、相手の自己満足に付き合わされているかのような気持ちになってくる。
そもそも、他人の脆い部分に触れるのは好きではなかった。
そんな重たいものを背負うほど、自分に余裕がある訳でもない。
「…そうだよね、迷惑だよね、ごめん」
震えるその声に、終ぞ否定の言葉はかけてやれなかった。
痛々しく微笑むのが、恨めしい。
自分が楽になるために私を消耗しようとしていたくせに、傷ついたように振る舞われると、私の悪い部分が余すことなく曝け出されたようだった。
そうして私は、そんな自分に辟易とするのだろう。
(他人の涙が嫌いな、私へ)