11/28/2023, 1:41:10 PM
「それでは諸君、今度こそ、アデュウ!」
そこが拘置所前という灰色なシチュエーションが一掃されるような鮮やかさが、その力強い声を響かせた。
それは朗々と5月の風のように伸びやかに、鮮烈にあたしを洗った。
まるで長く続いたお芝居の千秋楽のように、ひとつの世界の幕が下りるような、衝撃だったの。
離れたくない、いつまでもとびきり輝くあんたを見ていたいの!
瞬間的にとてつもない淋しさに襲われて、ひどく胸がドキドキする。
お願い、変わらないで。
そんなのたった今あんたをふったこのあたしが言えた事じゃないのに、唐突に強烈に、湧き上がってしまったの。
虚無の中に生きていたあんたが、こんなにも清々しく晴れやかに告げる別れは、あまりにも綺麗すぎて。
18歳の、心と命を燃やして駆け抜けたあんたの、すべてを振り切るような笑顔があんまりにも眩しくて。
あたしは駆け出しそうな自分を、底知れない不安に踊る心臓とともに必死で抑えたの。
どうかそんなあんたを、終わらせないで、シャルル。