鳥のように空とびたいよねー
似合わねぇな
なんでよ、ロマンでしょ?
おまえさ……
ケンタッキーでかしわ食いながら
話す話題じゃねぇよ?
そゆとこだぞ?
どうしてさよならを言う前に
居なくなるのだろう
こちらからは分からないのだから
せめて、そう決めたなら
ちゃんと終わりを告げてから
消えて欲しい
おかげで
四文字で済むはずの区切りが
10年のアディショナルタイムだよ
他人の視線をもとに、
自分の座標を確認する
他人は鏡とは
よく言われることだ
どうして人は
自分の立ち位置を
自分ひとりで
分かることが
出来ないのだろう
自分はじぶん
人と比べたくなんかないのに
サンクコストというのがあってね
今までかけた労力と時間を加味すればするほど
たとえそれに価値が伴っていなくても
捨てられなくなる
そう、例えばこの服
型が古くて多分袖を通すことはもうない
けれど、それを手に入れる過程に
大きな犠牲が伴っていたら
捨てるのを躊躇してしまう
執念のようなものにも当てはまる
この資格を得るために
この仕事に就くまでに
どれだけの人との関わり
努力、負債を抱えたか
たとえそれが益をもたらさなくても
恩を受けたこと
かけた時間とお金
全てを捨てて辞めてしまうことができない
いつまでも捨てられない
それもサンクコスト
でも立ち止まれない
この会社と心中できない
ごめんね
そう言って彼女は辞めていった
全ての人間関係を絶って。
僕はまだ
捨てる決心がつかずにいる
「真っ暗な中に波の音
夜の海ってなんかドキドキするよね
なんでだろ?」
「たぶん、ドラマや映画では
大体死体が発見されるからじゃない?」
「……なんでそんなロマンのないこというかなー?
あ、ほら、ウミホタルかな?光ってる」
「知ってる?ウミホタルって雑食で動物の死骸に群がるんだって。
どざえもんなんかにも群がるらしいよ」
「……あんたとはもう、海散歩しない……」
§夜の海