この国にはいつも雨が降っている。
相も変わらず灰色に広がる空を見上げながら、私は破れかぶれの気持ちで立っていた。
ずっとずっと空は泣いている。
こんなことはもう、終わりにしていいんじゃないのか、と。
「ひめさま、こんなところに!お体にさわります!」
ばしゃばしゃ、と慌てたように水溜まりを蹴って、傘をさしたマーニャが走り込んできた。少し年下の可愛い侍女は、心配そうに瞳を揺らしている。私を見つけて思わず飛び出してきたのか、編み下ろした赤毛とスカートの裾まで濡れている。
「マーニャ」
「いまお城は大騒ぎですよ、ひめさまがいなくなったって。もう少し御身のことを省みていただきませんと」
「ねぇマーニャ、」
「あぁもうこんなに冷えて!帰ったら温かいお茶をいれましょう」
息つく間もなくあれやこれやと世話を焼く妹分にくすぐったい気持ちになりながら、ふんわりとした厚手のタオルを押し付けてくるマーニャの手をトントンと叩いた。
「なんです?お菓子のリクエストなら受けませんからね」
「ふふ、ちがいますよ。
──終わりにしようと思うのです、わたし」
「……え」
髪の毛の水分をなんとか押しだそうとぎゅうぎゅうタオルを押し付けていた手が、一気に力をなくした。
まぁ、そんなに驚かなくてもいいのに。
ずぶ濡れの前髪をのけて、同じ高さにある薔薇色の瞳を見ると、いつも快活に輝いている瞳が戸惑いと恐怖に揺れていた。あと、ほんの少しの、期待。
複雑な色をしたそれに、やっぱりそうよね、と納得した。彼女だけではない。きっとこの国の皆が、こんな顔をするのだろう。
「きっとわたしのために、先延ばしにしてくれてたのでしょう。でもね、もういいのよ」
「そんな、まだ、大丈夫です!私達は何とかやっていけます!」
「私が我が国の窮状を何も知らないとでも思って?」
「う……」
ばつが悪そうに目をそらしたマーニャは、でも、とか、それでもまだ、といい募っていたが、同時に強くそう言えない事も分かっていた。
この国は龍の加護で成り立っていると言われている。
海に囲まれた国は自然が豊かな一方、水の災害も多く、そこから龍神を崇め奉るようになったのだと古く創成記にも記載があった。
龍神に国家繁栄を願い、加護をもらう対価として、その昔王家は自身の血筋から1人を神に仕える官として選び、身を捧げてきた。
永らく孤独だった龍神はこれをひどく喜び、王族には特別な加護と長寿をもたらしたという。
その加護が薄まっている、それどころかお怒りなのだ、早急に次の神官が必要だといわれている原因がこの数年続いた終わらない雨である。
お題・終わりにしよう
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中途半端ですが…