跳ねるように揺れて
舞うように色づく
ゆらめきながら注がれ
芳醇な湯気が全てを満たす
味わわずして虜となる
“紅茶の香り”
花には花言葉
人間には愛言葉
私の愛言葉はなんだろう
紫陽花と同じだと素敵だな
冷たさも悲しさも
裏切りも涙も
純白のベールのように纏って咲いていたい
“愛言葉”
大声で笑い合った理由も思い出せないけれど
死ぬまで宝箱にしまっておくの
“友達”
夕飯は何にしようかなとスマホを触りながら考える。明日は土曜日だ。一日中ダラダラしたい。
「よし。カレーにしよう。」
誰もいない部屋で、まるで自分に言い聞かせるように呟く。そうしないとなかなか動けない。材料があることを確認し、ジャガイモと玉ねぎの皮を剥き始める。
無心で準備をしていると、頭の片隅でずいぶん前に付き合っていた男性のことを思い出した。あの人はカレーが大好きだった。
「野菜は、大きめに切ると美味いんだ。特に人参は大きく、目立つように切ると見栄えがする。」
自分のカレーに対するこだわりを得意気に話していた。
私はあの自信満々で、少し子どもっぽい笑顔のあの人が大好きだった。どうして別れることになったのだろうか。そんな事を考えながらルーを入れて良い香りがしてきた鍋をかき混ぜる。
「いただきます」
炊きたてのご飯にできたてのカレーは相性抜群だ。見た目もなんとも食欲をそそる。
そこでふと思い出す。私の作るカレーには人参は入っていない。野菜は玉ねぎとジャガイモだけ。
そうだった。人参は嫌いだとあの人には言えなかったのだ。そんな簡単なことも伝えられなかった。
「そばにいて欲しい。行かないで。」
そんな難しすぎる本音、言えるはずがなかった。
“行かないで”
どこまでも続く青い空なんて最初に言い出したのは誰なのだろうか。そんなものは存在しないのに。
世界には同じ瞬間に青い空だけでなく白い空や黒い空、赤い空なども存在する。私が知らないところで知らない空が広がっている。だから空は心を揺さぶるのだろう。
「もう行くの。」
名残惜しそうに聞こえてしまうだろうか。
「明日は早いから。」
こんなときでも彼はそっけなく返す。彼は明日、戦地に赴く。これから家族に最期の挨拶をしに帰るのだ。
「そう。気をつけてね。」
これが最期の会話だった。
今となってはあれが正解だったと思う。家族でも恋仲でもなかった私達はあれ以上何も言うべきではなかった。彼が最期に会いに来てくれた。それが答えだ。
あの瞬間、全てが溢れ出してしまっていれば未来には悲劇しか生まれなかっただろう。
ただ、彼が最期に見た空が何色だったとしても、どうしようもなく美しかったことだけを願う。
“どこまでも続く青い空”