昔の事
地獄だった事、物心ついた頃から、家は、地獄だった。学校からの帰り道、三つのカーブを曲がった時、家の煙が見えた。見える日は、母がいる。何も無い日は、父が酔っている。また、長い夜が始まる。酔った父を横目で見ながら、家事をする。母と、歳の離れた妹、弟が暗くなって帰ってくる。それまでに、掃除、風呂炊き、夕飯の準備をする。酒を持って来いの声。また、始まる。どこまで飲んでも、飲み足らない。母が帰ると、苛立ち始める。何とか夕飯を済ませる。テレビなんて見られない。子供たちで隅で静かにして、夜を過ごす。母を怒鳴る声、お前の里が悪い。里の癖だ。母をけなす。
酒がなくなると、買って来い。仕方なく、村の中心まで、買いに行く。また、飲む。苛立ちは増し、母に暴力。母と下の妹弟を外にいかせて、父のそばにいる。怒りの話を聞きながら、眠れず。呼んでこい、たたき直すと言う父をなだめて、一晩過ごす。明け方にやっと眠る父。
何とか、学校に行く。
週に一回くらい、父が、吐いたりして飲めない日がある。その日は、眠れる。回復したら、また、酒の日々。
ハクロウ病になって、認定を受け、仕事しなくても、日に1万くらいもらえるようになった40代後半。糖尿病にもなって、病院へ通うようになり、自堕落になった父。母は、隣町へ働きに行った。私が家を回していた。意欲のなくなった父。酒に溺れた。5歳.7歳離れた妹弟、病院へも私が連れて行った。小学1年の頃には、父の酒乱は、あった。父は、五人兄弟、二人の姉、二人の弟。それなりの家の長男。大事にされて、甘やかされて育っている。母も、10歳離れた姉。可愛がられて甘やかされて育っている。その二人が人の紹介で結婚した。母が父の実家に馴染めず、嫁いだ家を出て、自分の実家に帰り、それを受け入れた両親もどうかと思う。父は、家を出て、母を連れて駆け落ち同然、お金のない生活。三人の子供。
のちに、父は母のせいで、こうなった。その思いもあり、暴力を振るった。もともとの、甘やかされた二人。特に父は実家への思いがあったのか。
小学校、中学校、高校、つらかった。
いい思い出は、無く、人に知られないよう繕っていた。毎日が地獄。眠れない。
看護学校へ行って寮に入ってから、やっと、眠れた。家のことが気になって、土日は、帰るようにした。変わらなかった。たぶん、妹、弟は、辛い目にあったと思う。あまり、言わないけど。母はそれ以上。
三人は、やっと結婚した。何とか取り繕って、父の酒乱を隠し。普通の家族を装って。妹の結婚式の後はまた、飲みたいが始まり、私の夫が介抱した。
歳を取っても母をなじることは、やめなかった。父が亡くなって、終わった。その少し前はもう飲めなくなっていたけど、今思うと、一生かけてどのくらい飲んだのだろうと思う。なぜそんな人生だったのか。
地獄だった。その日々は、誰も助けてくれない。誰も知らない日々。つらかった。怖かった。終わらないと思っていた。殺されるかもしれないと思っていた。その日々が私を作った。
時々寝付けない日々があると贅沢だと思う。何も恐怖も無い、安心して眠れるのだから。
62になっても、これから歳をとっても、忘れることは無い。なぜ地獄だったのか。忘れない。忘れられない。身体もと心に染み込んでいる。