山の奥、
見上げたら眩い星空が。
麓の方を見ると街の明かりが
キラキラと瞬いている。
空気が綺麗なこの場所で
私は育った。
生まれた頃から家には動物がいた。
犬、猫、ラット、鶏、メダカ、金魚。
殆ど死に際に立ち会い、火葬をして
この家の庭に埋めた。
お墓によって色々な花を植えた。
今年、9年前に亡くなった猫のお墓から
1度も咲いたことの無い藤の花が咲いて
亡くなってもなお
この子たちは励まそうとしてくれている。
私はたくさんの思い出と住んでいる。
ここにいる限りひとりにはならない。
ずっと、あの子たちがいるから。
居なくならないで。
ねえ。光の世界を見せてくれてありがとう。
ひとときでも君のそばにいれたことが
永く冷たい僕の命を照らしてくれたんだ。
君が居なくなるのが怖い。
どうして人間はこんなにも、儚いんだ。
なぜ、僕の前にいる君は
息も絶え絶えで
しわくちゃの笑顔で
"はなればなれになっても
あなたの記憶に私はいる"
"大好きだよ"
あぁ、まるで、呪いの言葉だ。
僕も愛していたよ。
この子だと思った。
目の前に4匹、かわいらしい子猫。
明日には保健所に連れていかれてしまうからと
SNSでの募集をみて1時間半、
ドキドキしながら車を運転した。
性別も分からない。
でも、この子にしようと手に取って
一緒にいることにした。
みーみーと不安がって鳴いている子を
一生懸命あやして
『大丈夫、これからずっと一緒だよ。
寂しくない、怖くないよ。』
声をかけて抱きしめて
夕日がそんな私たちを祝福するように
眩しくて、印象的だった。
あの日から4年。
今もこの子と一緒にいる。
私の宝物。
いつまでたってもかわいい
あの日の子猫のままだ。
私は泣いていた。
絵が描けなくなった。
自分の人生、アイデンティティ。
これが無くなれば私には何も残らない。
なのに手に持っていた筆は
いつの間にか透明になった。
描いても、描いても
空(くう)をなぞっているだけのようで
手元には何も、私には何も無かった。
あるとき風が吹いた。
それは色なき風、秋風だった。
筒状に開かれていた手の間を
無遠慮に通り抜けていく。
いつの間にか透明だった筆が
形を現していった。
手には何の色も付いていない
絵筆があった。
気まぐれなその風は少なくとも
今の私を救ってくれたらしい。
希望だけを描く必要はない。
秋の憂いを絵にしても良いのだと
言ってくれているようだった。
キャンバスに筆をなぞる。
描いた先に色が塗布される。
こんな当たり前のことが
嬉しくて、何より楽しくて
仕方がなかった。
あるとき風が吹いた。
この冷たさが
この厳しさが
今の私には心地よかった。
果たされることはもうない。
あなたは嘘つきだ。
沢山した約束のなかで、それは一段と輝いて見えた。
『また会いましょう』
そう言われたときの高揚たるや。
私は嬉しくてあなたの前でも帰宅してからも泣いて。
それで、結局最後だった。
期待させないで。
私が人間の形を持とうとするような希望を持たせないで。
この思考をあなたは理解できないだろう。