目が覚める
TV[今週は真夏日が続くでしょう。水を飲む時にレモン汁を入れると……]
熱中症対策をまとめたニュースが流れている。
時計を見ると午前10時。
今の時間、テレビを見ている学生なんて私くらいじゃないか?と疑問に思った。
呑気にそんなことを考えている場合ではない。
午前10時だって?
完全に遅刻だ!皆勤賞だったのに…
ああ、担任に失望されたらどうしよう
どうして寝坊してしまったんだ………
自己嫌悪と不安感から始まる一日が始まった。
走って汗だくになりながら電車に乗る。
この電車は車窓からきれいな海が見えるのだけど、そのせいで休日は観光客、早朝は通勤通学ラッシュでぎゅうぎゅう。
いつもなら四角い鉄の板を見るだけのつまらない通学時間だったが、空いていたので久しぶりに外を眺めていた。
綺麗だな、やっぱり海、好きだな。
『学校さぁ、一緒にサボっちゃおうよ〜!』
びっくりした。自分の声かと思った。
自分の声だとしても、何ふざけたこと言ってるんだ。
座っている私の横にいたのは、
同じ制服を来た、同じくらいの年齢の、同じくらいの背丈の 似た声を持つ女の子だった。
「いいよ。」
自分に似た子だったからだろうか?
驚いたことに 二つ返事で海辺の駅に降りた。
(……学校に行かず私は何をしているんだろう…)
『綺麗だねー!』
本日二回目の自己嫌悪に陥っている私をよそに、彼女が喜んでいる。
海なんて、この町に住んでいたらわざわざ降りるほどでもないのに。
まぁ、それでも小さい頃は海が大好きだったし…そういう人もいるか。
彼女は随分と子供っぽいんだな。などと、さっきまで海の景色にみとれていたのにも関わらず彼女に対し軽蔑していた。
にしても本当に今日は暑い。
なんで自分が砂浜にいるのか分からなくなってきた。
学校に行かないといけないのに。
こんな事してちゃダメなのに。
あれ?この子は誰だっけ
名前はなんだっけ
ふらふらする。
あ、熱中症ってこんな感じなのかな…
『大丈夫?! 木の下で少し休も!』
謎の女の子は私を介抱しながらマツの木の下に連れていってくれた。
彼女が買ってきてくれた水を飲み、ふたりで座る。
『マツの木ってね、風に強くてー、海の砂が町に入るのも防いでくれてねー!…って、ちゃんと聞いてる!?』
こっちはしんどいなのによく喋る子だ。本当に子供みたい。
…でも、なんだか憎めない。
最初は苦手だったこの子のこと、だんだん許せるようになってきた。自分もこのくらい素直ならな。と、尊敬までし始めた。それは言い過ぎか。
『ありがとう!』
なんだ、声に出てたか?それならまずいな。失礼なこと言ってしまった…いや、そんなはずは……
ぼーっとする頭でも一応脳みそを動かしていた。
強い陽射しから大きな松の木が守ってくれている。
視線を下にやると、トゲトゲした日陰の中にふたりの影がある。
また視界がグラグラする。
二人の影がひとつになる。
「ちょっと、近いよ!」
『元々私たちはひとつだよ。大丈夫だよ。』
何を言っているのかわからない。
彼女が私とかさなってゆく
重たい。
しかし、心は妙に軽くなり、激しい頭痛や目眩がスッと消えてゆく
泣きながら目が覚める
TV[今週は真夏日が続くでしょう。入浴前に水分を……]
熱中症対策をまとめたニュースが流れている。
時計を見ると午前10時。
出勤の時間は6時。所謂ブラック企業に勤めている私は、休日だというのに10という数字に焦っている。心臓の音が聞こえる。あぁ また発作が
途端に馬鹿みたいに思えた。
そうだ、私にはまだまだやりたいことがあるんだ。
知りたいことがたくさんある。
嫌なことは嫌だと言いたい。
好きなものは好きだと言いたい。
好きな場所に住んでみたい。
素直な自分になりたい。
隠してあったはずの感情が溢れてきた。
少し、休もう。
そんなことを考えながら勢いだけで退職届を書き
珍しくレモン水を飲んだ。
日陰
幼稚園から帰ってきた 昼下がり
家の階段に隠れて「わぁ!」って
下手くそに驚かそうとする
それが私の可愛い弟
背が高くなっても
声が低くなっても
複雑な心になっても
会話が少なくなっても
誰も信用出来なくなっても
私が生きている限り
あなたはずっと 私の可愛い弟
だから安心して お姉ちゃんを頼りなさい
仕方ないからどんな話でも聞いてあげるよ
そう思いながら玄関のドアを開ける
「わぁ!」
ちょっと低くなった声と変わらない無邪気さに
お姉ちゃん、驚かされちゃったよ
私を見ないで 期待しないで
瞳を閉じて ぎゅってして
女性の涙を見ると、脳の構造的に人はその女性のことを守りたいと思ってしまうらしい。
誰にも気付かれないくらい透明な涙を流せたらいいのにね
私のことを嫌っているのか好いているのか分からない。
他人に依存しちゃダメだって 自立しなきゃって
そんな事ばっかり考えていても
ぐしゃぐしゃな私を受け入れてくれる しっかりと叱ってくれる
それを愛情だと思い込んで またあなたのもとへ行ってもいいですか?