どろりと
レバーのようなかたまりが
お風呂場の排水溝に詰まる
なんだかかなしい
ただでさえ痛みのダメージがあるのに
汚れたパジャマを洗って、なお
排水溝の髪の毛に絡まったかたまりを
ティッシュでぬぐう
冷えた足先と太もも
容赦のない痛み
もう一度浴槽に浸かって気持ちをなぐさめる
少しぬるくなっている
涙が水面に跳ねた
仕事場に行く気にならない
我慢を重ねて
いつになったら解放されるの
何でもないふりをして
一年中元気な人間の演技なんて
むなしくてかなしい
それはわたしではないもの
わたしはどこにいるの
今ごろきっと
相変わらず電子タバコを吸ってる
つんとした鼻先で
幸せをこばむような冷めた瞳で
遠いところで愛想笑いしてる
あなたはしらないでしょ
何気ないあなたの背中は素敵なのよ
へんに凄んでみせるより
どんなに格好つけるより
何気ないときのあなたは魅力的なのよ
どうか飾らずに
卑屈にならずに
あなたは美しいから
心配しないで
ふるい時代にさかのぼり
気楽にあなたと笑いたい
あなたは悪い冗談をよく言うから
きっと今にはそぐわない
だけどわたしはあなたが好きで
時代から隠してあげたかった
あなたが無邪気に笑うのを
わたしは守ってあげたかった
あなたは天に行ったけど
いつかまた会う日には
誰にも咎められぬよう
こっそり巡り会えたらいい
だれかに邪魔だてされぬよう
荒っぽくて繊細な
あなたの心が守れるように
相手の気持ちをタロットで引くと
あなたと同じ気持ちですよ、とでる
だけどそんなのわからないし
確かめようがないし
そうでないとも言い切れないけど
そうに違いないと妄想するのも居心地わるく
けっきょく何もわからないまま
そんな夜更けを幾度も過ごし
人間って昔からこんなものなのかな
わたしの気持ちはあなたが好きです
元気だろうかと心配してます
シンプルにそれだけです
あなたのことが大事で
だけど他人にとられたくなくて複雑です
幸せを願えるほど出来た人じゃなくてごめんなさい
わたしは只の人間です
すべての答えが
スマホのなかにある気がしてた
好きなひとからのメッセージも電話も約束も
仕事もお金もチャージも
友だちもそこにいて
知識も明日の天気も今日の歩数もホルモンバランスも
だけど
今日目の前にある景色を
あなたは知らないでしょう
わたしのまつげに溜まる水滴を
ジョウビタキが一瞬キンモクセイに止まったことを
風のにおいを 予報はずれのにわか雨と日の照りを
なんでもない半開きの戸棚や木目の模様を
羽虫が鉛筆の芯のあとのある膝にかすったことを
一瞬お鍋を焦がして部屋のなかにいやなにおいが充満したことを
あなたは知らないの
あなたは知り得ないのよ