むかしのあだ名
それで呼ばれたら、小学生の頃の
無敵の女の子がニヤリと笑う
誰に媚びる必要もなく
生意気に好き勝手言って
責任なんて概念もなく
野の鳥のように自由だった
ひとを騙すようなことはしない
ただ毎日楽しい遊びを開発してた
大人たちも面白がってくれるから
なんにも怖くなかった
あの名前でしか得られない栄養素がある
「ねえ、◎◎ー!」
信頼されてる感じ 信用しているわたし
大人の世界の必需品は何も持ってなかったのに
しあわせそのものだった
遊ぼう、遊ぼう
わたしたちは宇宙の赤ちゃん
青春の余生を過ごしているだけのわたしが乗るべき列車が来ない
あの浜辺で
ひとりの女の子がぽつんと座り
海を眺めています
何をするでもなく
波が寄せては返すのを
ながめています
何も起こらない景色
でも小さく何かが起こり続けている
波が砂の上で遊ぶのを
雲がゆったり形を変え東へ流れていくのを
ながめています
声をかける必要はなく
ほうっておけばいいのです
気が済むまで海をながめる自由を
彼女に与えてあげてほしい
一生は一度きりならその自由を
どんなショーウィンドウにも飾れない自由を
蟹がさわさわと歩いて
貝の中から何かがのぞく
濡れた砂場で小さな気配たち
波の音 風の音 耳の中の音 身体の中の音
さっき過ぎた波
もう二度と会えない波
さっきした呼吸
もうあとかたもない昨日
次の波が また
すっくと立っていたい
自分に同情を誘うのももう飽きたし
傷はだれしもあるだろう
悲しみは痛かったねと受け止めて
自分の個を恥じてもそのままで
引き受けてものを言いたい
そんなに強くないけど
ずっと杖がいるほどでもないから
一人分支えられる腕の強さがほしい
弱さを蹴飛ばせる脚の力がほしい
言い訳を言いたがる口を叱りたい
嫌われたらきっと生きにくい
媚びてもきっと生きにくい
よろけそうなとき もう一歩前にすかさず踏んで
未来に走り出す力がほしい
ふりきっていけ
ふりきっていけ
心臓の音しかしないぐらい
自分そのものになりたい
好きな本があった。好きなアーティストがいた。好きな絵があった。
先生は言った。
「好きなものを紹介すると自分を知ってもらえてとてもいいですよ。」
彼は言った。
「その本はレベルが低い。作者は勉強不足だし、考え尽くされてない。⚪︎⚪︎主義の…」
黙れと思った。
彼は言った。
「そのグループは揃っていない。何がいいのかわからない」
もう一緒に音楽番組を見るまいと思った。
好きな絵があった。もう誰にも言わなかった。
ジャッジされるのはこりごりだ。世界を汚染されていくような気がする。
心のなかには聖域がある。たやすくだれでも招いてはいけない。親しい人でさえ、時には入れてはいけない。
先生はそこまで責任をとっちゃくれない。自分自身で考えて、守らなければ護られない。
自分を守っている人のこと、私は尊重するよ。
あなたは大事だよ。軽く扱わないし、笑ったりしないよ。
あなたの聖域を荒らしたりしないし見たりしない。
深い呼吸ができる場所を、どうか持っていてください。