「特別な夜って感じするね」
そんなこと言う君が可愛い。
君が隣にいてくれたら毎日が特別な夜なのに。
ぼんやり君との出来事を思い出しながら考え事をしている。
自分は生まれてこの方自分という人物とずっといる。
つまんねえなあ、暇だなあとか思う何の変哲もなかった過去。それもまた特別な夜を越えてきたから感じれたことだったのだろう。
誰かといると特別という言葉はすごく大切に聞こえるのに、1番近くの自分に対してこれまでそう思う回数が圧倒的に少なかった事に気がついた。
自分が自分として生きている事それだけでそもそも特別な事なのに。
意味なんてなくても十分なのに。
意味を考え続けてしまったり。
足るを知ればずっと近くにあるのに。
それでもずっと特別を求めてきた。
先に与える者になれたら解決する事を、
先に貰うことばかりを悩んでいた。
だんだんわかってはきたけれど、
それでも、それでも、君から特別って思われたいんだよな。
昨日送ったメール、君から返事はまだきてない。
ずいぶんのんびりした君のペースに自分はあたふたしてしまう。
ふぅと息を吐く。
今日は自分の事を思って過ごす、
特別な夜にしてみようかな。
物事を深く考えてしまう癖がある。
幼い頃の親と共生する為の生き方が癖になってしまったのだ。
言葉を事実としてではなく、本質や解釈を付け加えて相手の言葉をより一層理解してあげようとする自己犠牲精神。健全なコミュニケーションの中に自己犠牲はいらないと知ったのは25になってからだ。
それはそれは驚いた、自分がしてきた事がまるで無駄だったかのような、否定されたような、最初は理解できなかった、飲み込むのにすごく時間がかかった。
だけど全部が全部無駄ではなかった。私はそれをしてきたからこそ、他人の弱い所や隠している事に気づく事が出来る。
それを教えてくれたのは4個も下の彼、
21の若者のキレのある物言いにグサッとなる事が多い。
私は繊細な生き物なのだ。よしよし。とそっと心で自分をかわいがる。
自分より若い彼に言われるとまだまだ経験が足りないくせにという意地みたいなものと一緒に真剣にぶっ刺さっている自分がいる事にムッとする。
より若いとか、より大人とか "より"を付けて自分を下げなくていいですよ。とも言われた。グサッ。
日常的に話す機会が多いから他愛もない話からビジネスとか専門的な話もする。
ふとした時に彼が言った「過去にしぬほど悩んだ事がある。それに1人でしぬほど向き合った、どうせしぬなら変わってやると思った。泣いて泣いて、自分に怒った。」
初めて他人にこんな事言いましたよ。と少し息を大きく吸って吐く彼。
あぁ、彼の底はそこだったのか。
家に帰ってから本棚の端にあるノートを手に取る。
「私の中には小さな海がある。
潮の満ち引きのように心が揺らぎ、
時には大波がくる。」
中学の時に走り書きして残している時の情景を思い出す。ずっと1人で夜はずっと長かった。
読み返して中学生ながら生意気な気づきだな、ポエマーしてんなと思う。
海には底があり、そして波がある。
私の海の底に気づいた彼もまた、
別の海をもちその海の底をもっている。
彼の海の底を見せてくれた事が嬉しかった。
他人の海なんてわかりっこない、
わかりたくないと思っていたけれど、
出会うべくして出会ってくれたのだろう。
#海の底
私がもうちょっと生きようと思ったきっかけ
あの日道端で拾われた子
かまってほしいとニャーと鳴く
腕の中で眠る我が子
毎日同じ日の繰り返しの中に何を思うのだろう
小さな体でこんなにも愛をくれる
この子が生きる限りこの世界は私が守る
淡い空、静かな空気
意識がぼやっとして目を薄く開ける
私より少し大きなあなたの隣
ずっと夢を見ていたい
寒さが身に染みる頃、
残された喪失感と確かにここにあったなあという記憶の感覚だけが頭の中で流れる。
温もりを何度思い出そうとしても、同じ温もりが再度体に染みる事はない。
大学からの帰り道、2人でバスに揺られる。
君と出会ったのは同じ大学からの帰りのバス停で話した事がきっかけ。最初の会話は「あ、落ちましたよ」君がマフラーを落とした事に僕が気づいて、そこから話すようになって、なんだかんだ一緒に過ごす時間が多くなって。いつしか「恋人」になっていた。
運命とかそういうの僕は信じないけど、
君は「運命だね!」なんて嬉しそうに話していたね。
僕にはない、そういう所に惹かれたんだった。
「「37.2」この数字がなんだかわかる?」
真面目な顔してこっちを見ながら聞く君
「なんだろ、微熱?」
少し笑って冗談ぽく答える僕
「そうだけど!違うよ」
笑いながら返す君
「これはね、人が愛し合う時の温度」
「愛に温度があるなんてロマンチックだよねぇ」
少しこちらに視線を送ったあと窓から外の流れる景色を見る君。
「へえ、物知りだね。愛の温度か。」
答える僕。
そう話してくれた君の横顔があの頃よりやけに大人ぽく見えた。
この時の僕たちの温度は何度だったんだろう。
少しして君から
「もうおしまいにしよっか。」
と切なく優しい笑顔で伝えられた。
「わかった。」
としか返せなかった僕。
「なんで、どうして」と泣いて伝えたかった。
僕にはそれが出来なかった。
1人になってからグーを握りしめて泣く事しか出来なかった。
呆気なくさせてしまった。
こういう所だろうな。
君がくれる温度全て僕のたからものだった。
いつからか少しずつズレていた温度は、君によって支えられていたんだね。
今更もう。今ではもう。
後悔ばかりが膨らんで。
あの時の会話もっと膨らませろよ。なんて自責の念に駆られる。
同じ季節がきて、同じ風景が流れる。
寒さが身に染みても、もう温もりはいない。