ばれてしまった。
あなたの全てを知っている私が、あなたにばれてしまった。
私は、あなたが左足から靴下を脱ぐこと、襟首に25秒間シャワーを当てること、客人のホックを口を塞いで外すことを知っている。
薄ら笑いを浮かべるその顔は、高揚と期待と安堵が抑えきれなくなっているのを、私は知っている。
私は、あなたの根源 ー何を恐れ、何に安楽し、何が蜜となるのかを知っている。
あなたは嬉々として私に侵入させる。
冷めた目は上擦る汗を捉える。口腔が埋まり、やがて熱の共有がはじまる。
あなたは、私に知られてしまった。
あなたは、私を知ってしまった。
(あの日の景色)
23時現在、窓の外では雷が図太く地面を貫き渡る。肩まで布団を包ませた、この安全の欲求が満たされた場で、微睡む。目蓋はその重みに耐えられない一方で、耳の閉じる気配はない。
耳が繊細な衝突音を捉え、雨の始まりを知る。私の耳は、この雨音を聞くためにある。そこにあったはずの外界の音は、全部一定のノイズに掻き消されてしまって、私の憂鬱なこころに感触ひとつ残せない。
私は意識が曖昧になりながら願う。
どうか、私の目醒める時にも絶えず簾を降ろし、外を真っ暗にしてくれ。光に歓喜し、手を取り綻ぶ顔を踏み躙ってくれ。
どうせ壊れたこの脚では、誰かと走り回ることもできないのだから。
(願い事)
私はひとに心動かされる。ある時は異性の容姿に、ある時は同じ身体を持つ者に憧れと所有の欲求を通じて。そしてある時は、孤独を纏う自身の存在に。
誰かを特別視する気持ちは、その情の深浅によって案外長く引き摺ったり、気付かぬうちに散乱して消失したりする。私が孤独を抱えているのには、誰をどんなに強く、そして長く想いつづけても、結局のつながりを作り出せないところにあった。
誰かとつながり、心身甘え、濃く溶ける期待を持ちながら、“おともだち”という見え透いた文句から必死になって走り逃げる。人間の追い求めるものは、ふたつの精神の融合であるが、私はそれを避けつづけている。ひとつが裂けたこの半身でも生きて行けるのだと闊歩する。
流動的で何も得ることのない私の情念は、いつ認められ、実体を持つようになるのか。私は先の孤独をみる。ひとり暗く包まれるような一室で、体を縮める自分をみる。
誰彼に衝突するはずであった私の情念は、その身体に留まり、身ひとつあれば満たすことのできる貪欲な欲求へと変容していく。私は幾度となく溺れ、過度な程に自分のからだを知り尽くしていく。その手は他者の温もりを感じたいであろう。その心は別の物体を求めているであろう。
かわいそうな半身は極限を迎えている。またひとつ自分の切なさを知っていく。
そろそろ千切れた片方とつながるべき時機が来たのだ。
(空恋)