積もった雪に街灯が反射して、周囲がより明るく見える、雪明かりの夜
そんな光景は、さぞキレイなことだろう
直接見たことがないからわからないけれども
なにせ生まれも育ちも現住所も雪なんて絶対に降らない地域だからな
俺は地元から出たことがない
旅行へ行ったこともない
だから雪を見たことがないんだ
俺はもともと、雪が積もった光景自体にはそこまで魅力を感じないんだよ
けど、何かで見た雪明かりの映像は、雪に興味がなかった俺の目にも素晴らしいものに見えてね
いつか見てみたいななんて思っていたわけだ
で、満を持して、初めて住んでいる地域から出た
初旅行というわけだ
しかも長めの
旅行中の期間で雪が積もるほど降る可能性が濃厚らしいから、これは期待できる
俺は手こずりながらも旅行の段取りを整え、楽しみにしながら旅行当日を待った
そしてついに旅行中、雪が積もった!
映像で見るよりキレイだ!
なんだこの幻想的な風景は
全面が輝いている
正直、昼の雪はそこまでじゃないだろうと甘く見ていたが、それは間違いだった
日の出ているうちの雪もいいものだ
これは、雪明かりも期待できる
それまで雪で遊ぼう
せっかく初めて雪の中にいるんだ
童心に帰ってはしゃぐべきだと思う
下手くそながら、公園で雪だるまを作ってみたり、気をつけながらダイブなんかもした
ひと通り楽しんだ俺は、さすがに時間を余らせたため、飲食店で時間を潰す
夜の気配が近づいてくる
日が落ちて、人通りの多い繁華街へ向かう
明かりが多いため、雪も他の場所より美しくなるのではないかと思ったのだ
結果を言おう
俺には下手なイルミネーションよりも、美しく輝いて見えた
自然と人工の融合というか
電灯と雪の芸術というか
そういった雰囲気がとても魅力的に映ったのだ
この美しさを最大限表す言葉が出てこない自分の語彙力が恨めしい
ここまで感動できるものだったなんて
俺はこの光景にかなり満足できた
このあとの何日かの旅行がだるいと思うくらいには
もうこれで帰ってもいい気分だ
だが、それも今だけだろう
このテンションのままに、残りの旅行も楽しもうと、俺は改めて思うのだった
私は聖夜に祈りを捧げている
人々が幸せであるようにと
リア充カップルどももラブラブであれと
子どもたちが夢のような時間を過ごせるようにと
ひたすらひとりで祈りを捧げている
なんでクリスマスのこんな日にそんなことをしているのかって?
決まってるでしょ
人々の幸せを、みんなが浮かれるクリスマスにひとり祈ることで素晴らしい人間アピールをするためだよ
私には一緒にクリスマスを祝うような相手はいないからね
一人たりともいないからね
家族はなんか、忙しいらしいし
友達はいないし
当然恋人とかも実在を疑いたくなるほどできたことがないし
あっ、涙出そう
だから、こうしてクリスマスの間祈ることで神様に、この人に幸福を与えてあげようと思ってもらうわけ
すべてはリア充になるために
いや、もうね
打算的だろうとなんだろうと、やるしかないのよ
リア充になるのに手段なんか選んでられませんよ、本当に
ここまで必死になれば神様も哀れんでいい人を遣わしてくれるかもしれないじゃん
友達になれる人を送り出してくれるかもしれないじゃん
ってことだから、私はただただ祈りを捧げていくよ
しょうもないとは言わせない
私は本気も本気、超絶ウルトラ本気だからね
いよいよ冬本番になってきました
夏に猛暑であえいでいた私が嘘のように、今は寒さで凍えているのです
今年は特に寒い
別に平年に比べて特別気温が低いとか、そういうことはなくて
むしろ、今年は高い部類でしょう
なのになぜ凍えるのか
この寒さには明確な理由があります
こたつです
我が家では堕落の象徴であるとして、今年からこたつが廃止されてしまいました
冷えきった寒さの原因はこれをおいて他にありません
たしかに、私たちはこたつでゴロゴロしすぎました
こたつでだらけるのは気持ちがいいものですから
過去には出るのが億劫になりすぎて、水分補給を怠り、ちょっと体がよろしくない状態になりかけました
でもね、こたつで暖を取っていた人間がそれを突然取り上げられたらどうなると思います?
それがこの状況です
まるで氷河期
このままでは、我が家が寒さによって自然淘汰され、絶滅したところで不思議ではないレベルになります
しかしこたつはレンタル倉庫へ隠匿され、私では取り戻せません
ならばこたつは諦め、別の方法で暖を取る必要があるのです
私は閃きました
こたつという、遠い日のぬくもりに代わる方法はこれだ、と
ベッドに潜って、布団に使い捨てカイロを貼りまくるのです
これで温かい中でくつろげます
問題は、カイロはいつか冷め、補充をしなければならないという点
私は暖かくしてだらけるため、さらなる改善を目指すのでした
揺れるキャンドルは風前の灯火
この火が消える時、私の命も消えるだろう
そしてきっと、その時は遠くない
死神の足音はすぐそこまで来ている
贅沢は言わないが、最期に家族に会いたかった
好物のコロッケを食べたかった
だが、そうもいかない
もうじき、私の寿命も尽きる
蝋も溶けて、あと僅かしか残されていないようだ
ついに私の目の前に死神が現れ……
その後ろからやって来た別の神によって殴り飛ばされた
何だこの光景は
「何をするんですか、生命の女神!」
死神がドクロ顔でカタカタ文句を言う
仕事の邪魔をされて立腹しているようだ
腹はなく、骨しかないが
「殴ったのはごめんね
でも時間がなかったから
あのままだと、この人の魂を送っちゃってたでしょ?」
生命の女神は少し申し訳なさそうに言った
「阻止したということは……この者はまだ死ぬべき時ではないと?」
「生まれる時、手違いで短いキャンドルを渡しちゃってたのよ
うっかりしてたわ」
どうやら、私は本来の寿命より短く設定されていたらしい
そういうのは気をつけてくれ
そちらにとっては多くいる人類の中のひとりでも、私にとって命はひとつなのだから
しかしこの流れだと私はもう少し生きられるのか?
「ハァ
不注意にも程があるでしょう
人の命をなんだと思ってるんですか」
死神がなんか言ってる
いや、寿命を迎えた魂を狩って送る死神だからこそ、命の重みを知っているのかもしれない
「ということで、ごめんね?
お詫びに本来の寿命より長く生かしてあげるから許して?」
ちょっとずるい気もするが、原因は向こうのミスだし、もらえる寿命は遠慮なくもらっておこう
私もちょうど長生きというものをしてみたいと常々思っていたのだ
「じゃあ、キャンドルをゴッドLEDに変えておくね
これで火よりも長く生きられるし、ちょっとやそっとのことじゃ死なないわよ」
ゴッドLEDがなんなのかは知らないが、きっとLEDよりも長寿命の電気なのだろう
ありがたいことだ
今まで重かったのに、なんだか体が軽く、元気になっている気がする
体の奥底から健康なのを感じるくらいに、私は絶好調だ
「まったく
今度から本当に気をつけてくださいよ?」
「うん、なにか対策を考えておくよ」
二柱の神はそんなことを言いながら、去っていく
去り際に死神がこちらに振り向いた
「しばらく僕の出番はないようなので、安心してください
では、いずれ遠い未来に会いましょう」
そう言うと死神は私に手を振って、そのまま生命の女神と共に消えるのだった
なんとも、性格の良さそうな死神だったな
生命の女神も、親近感のわく神だったし
また会いたい、とはあまり思わないが……
さて
このあと、家族が瀕死であるはずの私がピンピンしているのを見て、大層驚いた後に大喜びしてくれた
そういうのを見ると、生きててよかったと思えるな
光の回廊と名付けられたランウェイ的な細長い床が、マス目ごとにピコピコ色を変えながら光っている
周りには期待の眼差しを向ける観客たち
俺は今すぐ帰りたい気分だった
ここは頭のおかしい友人による実験の場
そして、俺と観客はこの実験の犠牲者なのだ
事情を知る俺は、バンジージャンプ寸前の人の気分だが、観客はのんきなものだ
これから面白いことが起きると信じているのだから
残念ながら面白いことなんて起こらないよ
友人の、期待の新星の芸人が披露するネタをタダで見られる、という甘言に乗せられ、この会場に来たことを心底後悔することになる
まったく
売り出し中だからどれだけウケるか知りたいので無料観覧できますよ、じゃないんだよ
来る客も客だ
こんなに怪しいのに、よく期待できるな
友人の実験、と言っていいのかどうかすら怪しい、意味不明な思いつきは以下の通りである
期待させておいてゴミみたいなネタをやった時、観客はどんな反応をとるのか
バカじゃないのか?
それを知ってどうする?
俺を巻き込む理由はなんだ?
自分でやればいいんじゃないか?
俺が色々あって頼みを断れない立場にあるからって調子に乗りやがって
ムカつくけど逆らえない以上やるしかない
俺は覚悟を決めて光の回廊へ出る
色の変わる光の回廊か
明らかに無駄な仕様と名前をつけた理由を知りたいが、まあ大した意味はないのだろう
せっかくなら、俺の考えうる渾身のつまらないネタの要素として使ってやろう
「わー、色が変わる床だー
紫の時だけ踏んでやろう
……あー、この床、紫には光らないのかぁ
なら、赤と青を同時に踏めば紫を踏んだことになるんじゃね?
おおすごい、そんなアイディアを出すなんて、俺あったま悪ぃー
どうも、ありがとうございましたー」
あっけにとられていた観客の視線が徐々に殺意に変わっていくのを感じる
皆さんの貴重な時間を奪ったことに対して本当に申し訳ない気持ちだけど悪いのは俺じゃないんだ
俺にこんなことをやらせた友人なんだ
背中にチクチクとした視線を感じながら俺が急いで裏へ戻ると、すでに友人の姿はなく
代わりにメモにこんなことが書いてあった
『思ったより普通でつまらない反応だったね
がっかりだよ
飽きたから先に帰る
あとはよろしく』
あのクソ野郎、人にこんなことやらせといて何ひとりで勝手に帰ってんだ!
というか、あの地獄を俺ひとりで処理しろと?
あんなに俺に殺意を向けられてんのに?
本当の地獄はこれから始まるのだ
そんな確信の中、俺は光の回廊へ戻っていく
光の回廊が俺の目には暗黒の回廊に見えた