「幸せとは、なんだろうなぁ」
うわ、また面倒くさいこと言い始めたよ
時々この人は深そうなことを、浅はかな考えで言いたがるんだよね
深い考え持ってますアピールをしたいんだと思う
「幸せは与えられるものじゃない、自ら掴みとるものだ、とか聞いたことあるけどさ、人は一人では生きていけないとも言うだろ?」
「前者はあんまり聞いたことないですね
後者はありがちな言葉ですけど」
私も後者には同意する
前者は……知らん、考えたこともないし深く考えるつもりもない
「まあ、俺も最初のヤツはよく聞くわけじゃないけどな
ともかく、幸せになる努力も大事だと思うけどさ、必ずしもうまく行くとは限らないし、努力自体できないほどの不幸な環境もあるだろ?
他人の助けを借りまくって幸せになる場合もあると思うんだ」
その考えは間違いではないと思う
一方で、この手の話に正解はないから、私は正しいとも断言しない
「そういう考えもありますね
不覚にもちょっと共感した自分がいます」
「不覚なのか?
それで、幸せは自分の手で掴むものとか言ってるヤツはさ、そういう周りの協力ってものをどう見てるのかって思うわけよ」
あー、やっぱり面倒くさい話になりそう
存在するかもしれないけど明確でない仮想の相手に説教するつもりかな?
「自分も助けられたくせに、一人で幸せになったつもりになって、助けを借りる人間を見下しちゃいませんかって話さ
幸せとはなにかとか、そんなもん自分が決めることだし、人から与えられたものは偽物なんてのは、傲慢じゃないかね」
たぶんそういう意味じゃないと思うな
そういう意味とも捉えられるとは思うけど
「別にその言葉を言った人は、全部自分でなんとかしろって言いたいわけじゃないんじゃないですか?
助けを借りてもいいけど、自分でできることや、やるべきことは自分でやらないと、結果に納得できないよって程度の話では?
最初努力できなくても、できるところまで助けてもらったら、人任せになりきらずに自分でもがんばりましょう、みたいな」
そんなことを話したら、楽しそうな顔をされた
話に乗っといてなんだけど、私は楽しくはない
面倒くさい
「俺はちょっと悪意を持ちすぎたかな
お前みたいな考えのほうが、幸せになれそうだ
ま、俺は俺の考えもお前の考えも、どっちも間違いだとは思ってないけどな
つまり俺もお前も正しい」
間違いでないことと正しいかどうかは別問題な気が
どうでもいいけど
「とにかく、あれだ
俺は今、お前を始め、たくさんの人たちに支えられて幸せですって言いたかっただけさ」
うわぁ……
最終的な話の着地地点があまりにも浅すぎる
今までの話はなんだったの?
それを言いたいがために、あんな回りくどいことを?
いや、違うなこれは
オチに困っただけだな
何が言いたいとかじゃなくて、結局は自分深いですアピールしたかっただけだよ
やっぱり面倒くさい人だな
「話に付き合ってくれてありがとうな
これでうまいもんでも食ってくれ」
は?一万円?
「え?いや、別にこんなお金を貰うほどのことはしてませんけど」
「今だけじゃない、普段から俺のくだらん話を聞いてくれるだろ?
日頃の感謝の気持ちだよ」
受け取らないとダメかなあ
ちょっと重いけどまあいっか
「じゃあ、お言葉に甘えて
ありがとうございます
今日は奮発しておいしいもの食べます」
「そうしてくれ
じゃ、またな」
……幸せとは、こういうことの積み重ねかなあ
いや、それは文字通り現金すぎるか
明けない夜はない
今は暗くとも、必ず日は昇る
悪い状態が続いたとしても、いつかは光が差す
本当の日の出は待ち続けることしかできないが、心の日の出は、自分の努力や周囲の助けによって、時間を早めることができる
しかし、せっかくが朝を迎えても、また日が落ちて夜が来るだろう
それでも、幾度となく夜の闇に閉ざされたとしても、諦める必要はない
明けない夜はないのだから
何度でも日の出を迎えればいい
今年の抱負は、考えだしたらキリがないよね
達成したいことや、こう在りたいっていう姿が多すぎる
さあ、どうしたものか?
悩んでまで決めるようなことではないし、無くても問題ないと思うけど、やっぱり正月でたるんだ自分に喝を入れる意味でも、表明しておきたい
そういえば、私は去年は自分のことで精一杯だったから、今年は積極的に他人を助けられるような、そんな自分になりたいかな
人のための行動を色々できたらいいね
君はどんな一年にしたい?
去年の抱負はみんなの役に立つ、だっけ?
去年の君はたくさん頑張って、みんな助かったと思うから、有言実行できてたよね
ああ、今年は自分を大事にしていきたいんだね
そうだね、自分を大切にしてこそ、人にも優しくできるよね
去年、みんなのために色々やってきたんだから、その分、今年は自分のための一年にするのもいいと、私も思うよ
新年が明けてしまった
あけましておめでとうございます?
めでたくねえよ!
門松は冥土の旅の一里塚と言うだろう!
毎回この日を迎えると誕生日以上に歳取った気がすんだよ!
心中察するが、安心しろ
時間の流れは平等だ
お前が歳を取る時、この世の生きとし生けるものも歳を取っている
みんなで老いれば恐くない
ただ、始まりと終わりが違うだけだ
それに、体は老いても、心は成長しているとも考えられる
歳取ることも別に悪いことではないさ
自分が成長した新年を楽しめ
なんというポジティブ!
目からウロコだ!
なるほどな、みんなと一緒に成長してるんだな、俺も
門松は一皮むける一里塚ってことか
なんて言いくるめられるかー!
俺は信念を持って新年を拒否するぞ!
砂時計を横倒しにしてやる!
やれやれ、気にしても無意味なことが気になるやつは、大変だな
歳を取ることの是非はともかく、無事、新年を迎えられたことを喜んだほうが、人生得だぞ
今日は大晦日だっていうのに、非常に運が悪い
今年最後の買い物に行ったら、自転車が途中でパンク
さらに財布を忘れたことに気づいて一度自宅に戻る羽目になった
しかも改めて行った買い物の帰り、危ない自転車の運転をしていた奴に逆ギレされるし
気分転換のためにゲームで対戦したら、ダメ押しと言わんばかりに、全戦全敗である
最悪のシメだと、一緒に年越しするために集まった友人たちに愚痴ると、災難だったなと笑われた
笑い事じゃないぞ
テンションだだ下がりだよ
俺は少し不機嫌そうに顔を歪める
すると友人の一人、結城が俺の背中をポンッと叩いた
「まあ、来年分の悪いことが今日の出来事で無くなったと思おうぜ」
「まあ、そうとでも思わないとやってらんないよな」
なんかスッキリしないけど、納得させるか
俺は料理上手の矢野がすき焼きの用意をしているのを眺めながら、気分を切り替えることにした
ちなみに、矢野はちょっと変わったすき焼きにするらしい
「それに、今年のシメはこのすき焼きパーティーだろ?
今から存分に楽しめばいい
終わりよければ全てよしだ」
確かに、気の合う友人と楽しく喋りながらすき焼きを食べて、年越しができるんだから、それと比べたら今日起きた悪いことなんて大したことじゃないな
「じゃあ、今日は思いっきりはっちゃけるかな
そうすれば、気持ちよく新年を迎えられそうだ」
「そうそう
うまいもの食って、友人同士、話で盛り上がって、気分も上げながら、良いお年をお迎えしようぜ」
結城のポジティブさは見習いたいね
さて、矢野の特製すき焼きが完成したみたいだ
今日の本番はこれからだな