世の中には
不条理なことが沢山ある
そんな世界を生きていくためには
「無条件に信じる力」
が必要とされるのではないだろうか
これをしていれば大丈夫
そうやって、自分自身を信じる力。
これをしていればみんなが平和になれる
そうして、周りを、世界を信じる力。
それはどこか、
ディズニーランドを
「魔法の国」であると、
心から信じられる力と
似ている気がする
卒業式
号泣する僕の隣で、
君は、嫌になるくらい爽やかだった。
「泣かないの?
もう会えないんだよ?」
そう問いかけると、
君は
「分かってる。
でも、泣かないって決めたの。
だから、泣かないよ」
そう、答えた。
言葉と裏腹に、
彼女の目には
だんだんと涙が浮かんでいた。
あぁ、
今までも沢山泣いたんだろうな
そう思った僕は、
何も言わず
ただ彼女の手を
そっと握った。
「怖がりな自分を卒業したい」
何度そう思ってきただろう
そして
何度それを実行できなかっただろう
今日の空には
溢れんばかりの星と満月が浮かんでいた
まるで、星が月を歓迎するように
この空を
あなたもどこかで見ているだろうか
こんな空を
一緒に見あげて
「月が綺麗ですね」なんて
言って欲しかった
〜安らかな瞳〜
私の名前は、花。18歳
花のように、人々にささやかな喜びを
もたらせられる人になって欲しい
そんな両親の思いから名付けられた。
そんな私には、彼氏がいる。
彼の名前は、樹。同じく18歳。
大樹のように、おおらかで優しい人になって欲しい
というご両親の思いが詰まっている。
「名前が植物」というのが、
私たちの初めての会話の話題だった
そんな出会いからもう3年
私も彼も21歳になった。
しかし、交際3年目にして、
家が隣町であるにもかかわらず
ここ半年は会えていない。
忙しい、と言われるのだ
まぁ、私も大きなプロジェクトがあり忙しかったため
なんとも思っていなかった。
そんなある日、
彼から
メッセージが送られてきた
スマホの画面を見ると、
「ごめん
他に好きな人が出来たから、
別れて欲しい」
そう、書かれていた。
あまりに急な展開に、
私は頭が真っ白になってしまった
別れる?樹と?
……そんなの嫌だ
そう思った私は感情をぶつけるように
返信した
「嫌だ
絶対別れないから」
すぐに既読がついたのに
なかなか返信が来ない
私は痺れを切らして、
家を飛び出し、彼の家に向かった。
インターホンを押す
出てきたのは私の記憶と雰囲気の違う彼の顔。
ちょっと、痩せた?
そんなことが頭によぎりながらも、
ここに来た理由を思い出す
彼の家に入る
彼は、樹はやけに落ち着き払っていて、
一瞬、私が感情的になっているのがばかみたいに思えた
なんだか、すごく安らかなのだ
彼の瞳が。
樹の優しい色をした瞳は、安らかだった。
そこには嬉しそうな表情と、
どこか切なそうな表情が混ざりあっていた
その理由は――――
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『樹side』
僕の名前は樹。21歳。
彼女の花とは同い年で、付き合ってもうすぐ3年になる
今から1年前。
僕は不治の病が見つかった。
といっても進行は遅く、余命宣告もされていなかった。
ところが半年前
病気の発作で僕は倒れ、救急車に運ばれた。
医者の話ではかなり危なかったらしい。
僕はこの時、花に病気のことは黙っていよう
そう決意した。
無駄な気苦労をかけたくなかったし、
何より、僕が見ていないところで
彼女を悲しませることが、嫌だった
入院生活が始まってから、彼女から連絡が来ても、
「忙しいから」
と誤魔化した
幸い、彼女も仕事が立てこもり、
隣町の病院ながら、わざわざ会いに来ることはなかった
そして、その間にも、病気は
僕の体と、心を蝕んでいった
何度も発作が起き、
その度に意識が戻るのに時間がかかる
そうして半年が経ち、うちに帰ることになった。
もう病院でできることは何も無いそうだ
僕は、この世を去る時がきた
そして僕はついに決めた。
彼女と、花と、別れよう
どうやってメッセージを送るべきか
長いこと考えたが、好きな人が出来た
というのが1番マシな気がした。
そうして、ついにメッセージを送った
すぐに「嫌だ」と返信があった
しばらくして、家のインターホンが鳴った
画面には、半年ぶりに見る彼女の顔があった
嬉しい
そう思ってしまった。
ドアを開ける
彼女の表情からは、怒りとほんの少しの困惑が見えた
多分病気のせいで痩せたからだろう。
僕は今から、この人に打ち明けなければならない。
きっと泣かせてしまう。
でも僕は、こんな時でも彼女を愛しく思ってしまう。
もうこれで会うこともないだろうに、
彼女に触れたいと思ってしまう。
緊張して、話をはぐらかしてしまいそうだ
でも、言わなければ
僕の、僕たちのこれからを。
彼女が辿る、辛く悲しい運命を。