【伝えたい】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/13 PM 5:35
「天明(てんめい)くん、お願いがあります」
「ん? なんだ?」
帰り道、古結(こゆい)が畏まった様子で
そう切り出した。
一体何事だろうと少し緊張する。
「明日はバレンタインデーです」
「ああ、そうか。14日だな」
「うん。だから、天明くんは
気持ちを伝えたいっていう
女の子たちからの告白ラッシュで
とっても忙しい日だと思うんだけど」
「――いや、買い被りがすごくないか?
そんなことにはならねーって」
ないない、と笑ってしまう。
古結の中で、俺はそんな漫画みたいな事が
起きる人物になっているんだろうか。
「うわぁ……むしろ天明くんの自己評価の
低さに今びっくりしてるよ……。
ちゃんと覚悟しておいた方がいいよー?」
「……暁、お願いし忘れてるよ」
「あっ、ほんとだ!
ありがとう、真夜(よる)くん。
えー、そんな訳で忙しいとは思うんだけど、
放課後、わたしたちにもお時間ください。
告白ラッシュ落ち着いてからでいいので!」
「(告白ラッシュは譲らないんだな……)
分かった。待ち合わせどこにする?」
「宵ちゃんのクラスの教室で待ってるね。
時間が出来たらLINEして欲しいかな」
「了解」
【この場所で】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/12 PM 7:10
「~~~~~っ! 読み終わったー。
真夜(よる)くん、貸してくれて
ありがとう」
「どうだった?」
「『この場所でまた会おう』って
約束したのに、事件に巻き込まれて
タイムリープしちゃって、大切な人に
二度と会えなくなっちゃうの、切な過ぎ」
「でも、暁は好きそうな話かと思って」
「超好き……タイムリープした先で自分が
育てた弟子が、約束の場所で大切な人の
子孫に出会って、その子を護るために
戦っていくなんて、もう偶然じゃなくて
運命って感じで超萌え。
……わたしは萌えたけど、
宵ちゃんは哀しさの方が
勝っちゃうんじゃないかな~?」
「宵は泣いてた」
「あー、やっぱり。そうだよね、師匠は
結局戻れないんだもんね……。
弟子が連れてきた子孫の子を見て、
会えなくなってしまった人を
愛してたんだってことに初めて
気づいちゃうとこは、わたしも
胸がキュッて苦しくなったもん。
一度だけ子孫の子を師匠が抱き締める
とことか、弟子に『お前は絶対に離すな。
離れるな』って言うとこも堪らなかった。
……そういうシーンですぐ泣いちゃう
宵ちゃんて、本当に可愛いよねぇ」
【誰もがみんな】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/12 PM 2:45
「暁はいつも同じようなゲーム
やってて飽きないの?」
「飽きないよー? 確かにキャラクターを
攻略する、っていうことに関しては
みんな同じかもしれないけど、
世界観はそれぞれ違うから。
学園ものとか、異世界ファンタジーとか、
時代劇風とか、近未来っぽいのもあるかな」
「キャラクターが似通ってしまうことは?」
「ん~……、設定が似てる、
みたいなことはあるかもしれない?
例えば、誰もがみんなメロメロな
学校一人気の美少女とか~、
誰もがみんな一目置くイケメン生徒会長とか。
でもやっぱり、性格やそのキャラが抱える
バックグラウンドはみんな違ってて、
仲良くなってそれを知っていくのは楽しいよ」
「ふぅん」
「うわぁ、興味なさそうな返事!
ゲームによっては、RPGや育成や戦闘SLG
要素もあったりして、キャラ攻略以外の
ところも楽しめたりするのに。
宵ちゃんに今やってみてもらってる
ゲームだってそうだよ?」
「え?」
「え? って。宵ちゃん、違うから!
バスケの試合に勝つために
キャラの育成も必要だけど、
目的それだけじゃないからね!?
部活動だけやってないで、
もっとキャラと会話して!
校内だけじゃなく、街のマップの方にも
行って、恋愛イベント起こして!
お願いだから!」
「試合の日が迫ってるのに?」
「もー。ひとりやふたり、
気になるキャラいないの?」
「……この子」
「あれ、意外。可愛いタイプの男の子だ。
ポイントガードの先輩なら
真夜(よる)くんにちょっと似てるから
気になるかなと思ったけど。
あ、その子が宵ちゃんと同じポジション
だから気になるとか?」
「この子、フリースローの成功率、
あまり良くないのよね……。
練習メニュー変えた方がいいのかしら」
「だから……そうじゃなくてね……」
【花束】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/11 PM 1:30
日本では、女性から男性へ
チョコレートを贈る日として
定着しているバレンタインデー。
海外では、男性から女性へ
花を贈るフラワーバレンタインの方が
一般的で、日本でも認知されてきたと
お昼の情報番組で紹介されていた。
とはいえ、きっとこれからも日本では、
バレンタインデーに女性がチョコを贈り、
ホワイトデーに男性がお返しをするという
慣習が続いていくんだろう。
(花、か)
宵と暁へのホワイトデーのギフトは
チョコやマカロン、マドレーヌといった
スイーツばかりだったけれど、
花を贈るのもいいのかもしれない。
(花束……ああ、でも手入れが大変か。
それよりはインテリアとして飾って
長く楽しめるような……)
検索して見つけたのは、
キューブ型の透明なシリコン樹脂に
たくさんの花を閉じ込めたような
《クリスタルハーバリウム》。
キラキラ輝く立方体の中で、花の色が
あまりにも鮮やかで綺麗だった。
宵は青系の色が好きだから、
ブルーローズを基調としたものがいい。
暁はピンク……いや、それよりも
黄やオレンジ、白といった明るくて
元気が出そうな色の花の方が
いいかもしれない。
宵は表面上は控えめに。暁は手放しで。
2人とも、きっと喜んでくれるだろう。
【スマイル】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/11 AM 11:10
「ん~、やっぱりバレンタインの
特設会場っていいよね!
チョコもキラキラしてるし、
買いに来た人の笑顔もキラキラしてるし。
ほらほら~、宵ちゃんも笑って!
スマイルスマイル」
「はしゃぎ過ぎよ」
「宵ちゃんがクール過ぎなの!
こんなに素敵なチョコがいっぱいあるのに
どうしてテンションが上がらないかな。
――ねぇ、見て見て!
このチョコ、猫の形してる。
缶の猫のイラストもすごく可愛い」
「……確かに、可愛いわね」
「すみませーん、これください」
「え、買うの?」
「うん。これはわたしから宵ちゃんへ」
「っ…、アタシのを買ってどうするのよ。
目的がズレてるじゃない」
「宵ちゃんもわたしにとっては好きって
気持ちを伝えたい大切な人だからいいの!
……真夜(よる)くんは、
見た目はシンプルだけど、味や食感を
とことん追求してるような……、
ビターテイストで、ふわとろな口どけ……
あ、このチョコいいかも」
「……そうね、良さそう」
「宵ちゃんのお墨付きがあれば安心だね~。
……真夜くんも普段はあまり
笑わないから、贈り物した時に見られる
笑顔の威力がもうとんでもないよね。
毎年バレンタインとか誕生日とか、
見るたびキュン死しそうになるよ。
――あとは天明(てんめい)くんのだね。
頑張って選ぼ、宵ちゃん」