「街」
しずかにしめった路地裏に
靴音だけが響いてくる
切り絵の街
迎えに来る
その足音だけを待っていた
久しぶりだね
君はずっと 変わらないんだね
あの日の約束は覚えていたから
旅支度は済んでいる
添えられた象牙色の手に
そっと手を合わせたら
待ち侘びた年月分の
時が戻った
「やりたいこと」
会社の前の郵便ポストに
封筒を出しに行って
エレベーターから1階に降りた途端につまずいて
ビルの受付の人に 大丈夫かと声を掛けられた
疲れてるのかな
「たまに息抜きしないと
貴方の会社のAさんなんて
いっつもここで誰か男の人と雑談してたよ」
「Aさん辞めたけどね
私もそろそろ辞めたいよ」
「駄目だよ続けなきゃ 今の世の中
何があるかわかんないよ
物の値段もどんどん上がってて尋常じゃない
美味しいもの食べて 好きな事して
元気出すんだよ」
最近は推しのライブを観に行くのを
楽しみにしていると受付の人は言っていた
エレベーターの昇るボタンを押しながら
Aさんが話してた男の人は誰だったのか
考えていたら
むくむく元気が湧いて来た
腹黒で最低なワタクシであった
「岐路」
後から振り返って
あれが人生の岐路だったと思うならまだしも
今だね間違いなく 今立っているね
ああ立たされる 人生の岐路
この道しかないとは思わないようにしている
途中で気が変わって
引き返しても良いと思っている
道は一つじゃない
曲がり角でへたり込んで
空を眺めながら
しばし休憩しても良いじゃないか
何なら遠くのあの鳥に
海の方角を尋ねても良い
目印はつけて置いた
じゃあね雲雀
また何処かでね
「世界の終わりに君と」
君と二人で居れるなら
世界が終わってもいい
さようなら世界
という人には ついぞ巡り会いもせず
こうしてひとり
遠くの爆音を聞いている
じわじわと近づいて来るその音は
簡単には終わらせない苦難の予感をも潜ませている
「最悪」
最悪の状態は過ぎたのか
まだわからない
カンストはもっと先かもしれない
英語の日本語訳みたいに
最も悪い事であるものの一つ
と思っておいた方が良いのかもしれない
昔 懸賞が流行って
今より当選品も当選数も豪華だった時に
家電とか旅行券とか大物を当てた時に限って
家族が怪我をしたり
不運に巻き込まれたりしたので
割と
運も等価交換だと思っていて
禍福は糾える縄の如し
人生万事塞翁が馬
最悪の後には最高が待っているかもしれないし
その最高も
最も良い事であるものの一つなのだから
まあぼちぼち
ゆるっと参りましょう