「無垢」
ぷにぷにほっぺにツヤツヤおでこ
手首と曲げた肘に出来る皺
ほわほわの産毛
そして 見るもの全てに
好奇心を発動させていた
何もかもが楽しくて
あの子の瞳は
いつから曇りがちになったのだろう
自分で積み上げた積み木を
自分で崩して行くループを
見ている事しかできない
わたしとて
俯いて歩く為に歩き方を覚えた訳じゃない
そのうちにうんと年を取って
歩けなくなって
お座りしながら
ホワホワの生え際で
頭の中もシンプルになって
心も無垢に
還って行くのだろうか
「終わりなき旅」
時々 こんな旅はもう終わりにしたいと思って
背中の荷物を下ろしたくなるの
頭の中では何度も 何度も
床にリュックを叩きつけてる
泣いて泣いて泣きながら
飛び出た思い出を拾っては
またリュックに戻して
じっとうずくまる
もういいよ
誰だよシャツの裾を引っ張っているのは
いつかの小さい指で
あたたかい手のひらで
くすぐらないでおくれよ
また立ち上がって
歩きたくなってしまうじゃないか
「半袖」
日焼け止めを塗っていたのにな
昨日はすっかり 初夏の日差しだった
普段はほとんど屋内だから
ちょっと日焼けするくらいで丁度良いんだけどね
さあ ストローハットの
準備は宜しいか お嬢さん達
半袖からのぞく腕を並べて
こんがり具合を確かめたら
あの日失くした夏を取り戻しに行こう
「月に願いを」
ついつい
月に長居をしてしまった
そろそろ帰還せねば
レバーを戻して 背筋を伸ばす
窓の外には本物の新月
真実の私は 何を願おう
哀しみばかりのこの地上で
生身の頼りなさで
「降り止まない雨」
巨大な石仏が横たわる小道を
傘をさして降りる
もとはテーマパークのアトラクションだったらしい
故郷の町は
いつも陽が降り注いでいたが
此処に来てからは傘をさしてばかりだ
あの人に 昔聞いたのだ
雨ばかり降っている町に住んでいたと
此処は晴れの日ばかりで良いなと
言っていたのに
尤も 何か約束を交わしていた訳でもない
勝手に私が行方を探しているだけ
子供の頃に隠れ家にしていたと
誰も知らない抜け道があると
たまに話していた
巨大な石仏の
右の手のひらの辺り
有刺鉄線を乗り越えて傘を閉じる
扉の開け方も 丁寧に教えてくれていた
まるで私が追いかけて来るのが
わかっていたかのように
今度は私が 手を貸す番だ