「何もいらない」
え、私は要らなくないです たくさん要ります
まずは健康な身体です
あちこちガタが来てますからねえ
栄養も必要です
この星には もうあまり 資源が残っていないので
自業自得だって?
私に言われても困ります
待って 行かないで
それから安心して暮らせる場所を
此処はもう 私達しか住めない星になってしまった
録画機能を搭載した無人の偵察艇が飛び立つ
この星も移住出来る環境ではないらしいと
「もしも未来を見れるなら」
それは何年先の未来でしょう
どこの 誰の 何の未来でしょう
その世界には私は居るのでしょうか
それを見た私は 何を思うのでしょうか
それは 変えられる 未来なのでしょうか
今を信じて 懸命に生きて
明日の自分に託す
後は任せたと
明日の自分が目覚めたら
昨日のわたし グッジョブと
小鍋に残った スープを温める
私の未来は それだけでいい
「無色の世界」
大切な人が 桜と共に 逝ってしまった
どうか色とりどりの 花に囲まれて
安らかな場所でお眠りください
携帯の機種を変えたので
LINEの履歴は引き継ぎ出来るけど
メールは新しいスマホには残っていない事に思い至り
充電すら怠っていた
古い機種の立ち上げ直しから始める
残っていた
履歴のやり取りに また涙が溢れてくる
オレンジ色のアイコン
もう 返事は来ない
「桜散る」
桜はいいな
咲いて美しく
散ってなお 皆に惜しまれる
桜茶に桜餅
みんなの大好きが詰まってるし
死体までも埋められちゃってる疑惑まである
なんてミステリアス
本当は 騒がしいのが苦手なので
酔っ払いどもが来ない
山奥のどこかで
ひっそりと咲きたかったのよ
公園に咲く貴方は言った
皆があまりにわたくしの事を崇め奉るから
長年 力を貰い過ぎて
本気を出せば嵐も起こせるの 実はわたくし
だから今年は ほんの少し 早く散った
うっすらと声に笑みを滲ませて
満足げに緑の葉をさらけ出す
なんてミステリアス
「夢見る心」
昔 母が 子供だったわたしに
「きちんと寝床を整えて寝ると
お姫様の夢が見れるんだよ」と
布団の敷き方を教えてくれた
風呂場で足の踵の洗い方を教えるような口調で
現実的で実用的な事しか言わない母にしては
珍しい ファンタジー設定だった
口調が棒読みで
本当にそんな夢が見れるとは思っていないのが
バレバレだったけど
私も お姫様の夢は
特に見たいとも思わなかったけど
ただ たまにうなされて いつだったか
怪獣が夢に出て来たと泣いた事は覚えている
「かいじゅうがわたしのドーナツ
たべちゃったんだよ」
トイレで暫く泣いていたらしい
寝ぼけて泣く子を布団に戻し
シーツの皺を伸ばして
掛け布団を掛けて
お妃様は 姫君よりも先に眠りについたのです
その晩 夢を見たのかどうかは 覚えていない