「夢見る心」
昔 母が 子供だったわたしに
「きちんと寝床を整えて寝ると
お姫様の夢が見れるんだよ」と
布団の敷き方を教えてくれた
風呂場で足の踵の洗い方を教えるような口調で
現実的で実用的な事しか言わない母にしては
珍しい ファンタジー設定だった
口調が棒読みで
本当にそんな夢が見れるとは思っていないのが
バレバレだったけど
私も お姫様の夢は
特に見たいとも思わなかったけど
ただ たまにうなされて いつだったか
怪獣が夢に出て来たと泣いた事は覚えている
「かいじゅうがわたしのドーナツ
たべちゃったんだよ」
トイレで暫く泣いていたらしい
寝ぼけて泣く子を布団に戻し
シーツの皺を伸ばして
掛け布団を掛けて
お妃様は 姫君よりも先に眠りについたのです
その晩 夢を見たのかどうかは 覚えていない
「届かぬ想い」
届かなくていい
そう思いながら
本当は気付いて欲しい
私の言葉を 聞いて欲しい
笑いかけて欲しい
頷いて欲しい
首を傾けて
また明日ねと 手を振って欲しい
フォトフレームの内側から
今日も 届かぬ思いは
空を漂う
「神様へ」
私にとっての神様は どの神様だろう
八百万の神か オンリーワンか
トイレにも神様はおられるらしいし
それとも 天に旅立った 思い出の中の人たちか
神様 もしも 私の声が聞こえたなら
私に自由を
私だけの人生をください
誰にも縛られず
心から笑える日々を取り戻す勇気と力をください
私の中にも多分 神はいる
ひっそりと 祈る
声よ届けと
鐘よ鳴り響けと
「快晴」
散り行く桜を見送るような青
また来年 此処でお会いしましょう
私は葉桜 しぶとく次の春を待つ
可哀想な自分は、花びらと共に昨日川に流した
堀に沿った並木道 其々の桜が ぞろぞろ店仕舞い
並木道が連なるこの川は 更に先まで街を横断し
田んぼに畑に水を与え 海へと続く
海を思い 春を思う
生まれ故郷の 海沿いの町も多分 今日は快晴
私は葉桜 しぶとく次の春を待つ
「遠くの空へ」
桜の時期は忙しくて
ここ数年は通勤途中に咲いたな、散ったなくらいの認識で居た
今年は仕事は余裕が出て来たけど人間関係に疲れ
癒しを求めて
会社を休んで近所の桜並木を訪れた
足を止めて見ている二人連れやカメラを構える人
それぞれに好きな木や角度を探してぐるぐると
自分の木を探している
何故だか自分に話しかけているような木に
必ず巡り会うという
堀の周りをぐるり
一本の桜に足を止める
ああ やっぱり この木だった
久しぶりだね
◯◯
今はこの木に宿ったんだね
花びらのざわめきがふっと止んだ
またいつか お会いしましょう
空を仰ぐ