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3/19/2026, 2:32:57 AM

「僕は悪いやつをこらしめるヒーローだ!パパ怪獣め、くらえ!」
風呂上がり、フルチンのままバスタオルの端と端を首の前で結び、マントのようにする。
こうすることで、幼い頃の俺はヒーローになることができた。
僕の将来の夢はヒーローになることだった。

チン、と軽やかな音が部屋に響き渡る。
ガチャ、と扉を開き、中にある夕飯を取り出す。

世の中の不条理は、俺に重くのしかかってくる。
会社では後輩のミスの尻拭いをさせられ、更にそのミスはなんやかんやで俺のせいだと言われ。
いくら後輩が役員の息子だからって、媚びすぎじゃないか?
上司は俺が取ってきた契約を自分の手柄にしたし、パワハラも日常茶飯事。
慰めてくれる同僚に感謝もせず、ヒーロー気取りだと思って嫌な顔をする俺も同類だ。
この世は不条理だ。

会社、辞めたいな。
温め時間が足りなかったのか、真ん中のところだけ冷えた夕飯を口へ運びながら思う。
ふと、幼い頃の記憶が蘇る。

「ヒーロー……」

ピコン、と通知が。
母さんからだった。

「最近仕事はどう?次のお盆にでも帰ってきてね。」

短い文だったが、母さんの温もりが伝わってくる。
2年前に買っていたスマホも、ようやく扱い方がわかってきたらしい。あんな歳になっても成長することってあるんだな。

……風呂にでも入ろう。


シャワーをサッと浴び、サッと出る。
子供の頃は毎日風呂が沸いていて、それが当たり前だと思っていた。
一人暮らしの今、水道代が勿体なくてとても疲れた日にしかしないし、まず疲れていたら入る前に泥のように眠るから沸かすことは滅多にない。

風呂上がり、フルチンのままバスタオルの端と端を首の前で結び、マントのようにする。
今ならなんでもできるような気がする。
どうせ誰も見てないだろうし、夏だし。
ベランダにも出てみよう。

夜の少し冷えた風が、火照った身体を撫でるのが気持ちいい。

……今なら、飛べるかもしれない。
柵に足をかけ、ふわふわとした頭のまま体を外へ出す。
世間体や、仕事、家族のことはどんどんと頭から抜けていく。
あーあ。発見される姿が、バスタオルにフルチンかぁ。


Q.息子さんの行動に、心当たりはありますか?
A.最近は息子に会っていなかったので……。仕事にストレスを抱えていたのかもしれません……。

────悲しみに暮れ、泣き出しそうな顔をする女性

Q.〇〇さんとよく関わっていたようですが、どのような方でしたか?
A.あー……俺にとって、都合のいい人でしたよ(笑)大抵言うこと聞いてくれますし。先輩ヅラ?ってゆーの?だけがちょっと気に入らなかったかも(笑)

────ちょっと青くなった顔で、飄々と答える若い青年

Q.部下として、〇〇さんについてなにか思うことは?
A.アイツはね、仕事はできるんだけど、世渡りが下手でね……。可哀想なヤツですよ。本当に。

────呆れながらも、哀れみの目をする男性

Q.で、なんでこんな事したの?
A.あの、本当に……。すみません……。子供の頃を思い出して……飛べると思ったんです……。

────赤面しながら、震えた声で答える男性

俺が住んでいたのは2階だった。落ちたところは、たまたま低木の上だった。
背中に枝がちょっと刺さって、痛かった。