NoName

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3/1/2026, 9:10:24 AM

遠くの街へ

扉の呼び鈴がチリン、と揺れた。
本を読んでいた私はふと入り口に視線を移す。
身長は160cm後半、少し老け顔の男性が立っていた。
「いらっしゃい」
店の店主が男性に向かって声をかける。
男性は無言で店主の方へと向かった。
「何か、お探しで?」
店主がそう聞いても男性は事を発さず、ただ黙ってメニューを見ている。
その横顔はどこか寂しげな表情を浮かべていた。
「……カフェラテを、砂糖なしで」
それと、と男性は続ける。
「この近くにバス停はありますか?」
「バス停?」
店主は怪訝そうな表情を浮かべる。
そうなるのも無理はない。だって、バス停は店を出てすぐそこにあるのだから。
「バス停なら目の前にありますが…?」
店主が窓の外を指差しながら答えるが、男性は首を横に振った。
「ソトに出るバス停です」
「外…?」
店主は更に怪訝そうな表情を浮かべた。
かくいう私も聞き耳を立てながら同じような心境に陥った。