『旅路の果てに』
…どのくらい遠くに来ただろう。
いくつもの月が頭上を通って過ぎていった。
何もかもから逃げ出したくて、
無我夢中で歩き続けた。
お気に入りの鞄に
ポチ袋に入ったままの貰ったばかりのお年玉と、
ため続けていた貯金を財布に入れて、
スマホと充電器も入れて、
折り畳み傘と、
唯一好きになれた数学の教科書をいれて。
長袖と長ズボンとアウターを着て
親も親友も友人も先生も近所の人も誰にも見つからずに
18年間住み続けた街を抜け出した。
……筈だったのに。
「あ、見つけた。ここに来ると思ったよ。」
アイツはいつも、私の行く先にいる。
親でも親友でも友人でも先生でも近所の人でも
なんでもないのに。
アイツはいつも、私の心を見透かしてくる。
「ねぇ、何処に行こうか。
誰にも見つからない場所を探そうよ」
そう言って、私の心に上がり込んでくるのに
いつもいつも、コイツだけは許してしまうんだ。
『永遠に』
永遠なんて、存在しない。
だから、君が僕を愛してくれているうちに
君が僕だけを見ているうちに、
愛を永遠にしてあげる。
『行かないで』
僕より先に産まれたあなたへ
こんな田舎から出ていきたいんでしょう?
僕も連れてってよ。
まだまだ高校生で、できることは少ないけど。
あなたと離れたら僕は
何もできなくなっちゃうから。
ねえ、都会になんて行かないでよ。
『子供のように』
私立日賀志高校、七人しかいない演劇部の一年生。
あぁ、今日はここで上演するんだ。
観客席のドアを開けて、降りている緞帳を見た。
ワクワクした。
緊張した。
だけど、自分にできることをやりきりたかった。
今まで何度も何度も重ねてきた練習。
先輩から貰ったアドバイス。
きっちり全て受け止めることはできなかった。
だけど、今の自分に表現できることを。
人物を生かす。
台詞がないときでも動く。
客の目は惹かずとも、「私」は生きているから。
紙の上の存在ではないことを
今日、証明する。
『喪失感』
私は、彼が嫌いだった。
ある日告白されて、付き合った。
その時は、好きだった。
けど、段々と嫌になっていった。
嫌なところが目につくようになった。
だから、私の方から、一方的に振った。
それなのに。
なんでかな。
どうして。
どこからか溢れてくるこの雨粒は、
とめどなく落ちてくるんだろう。